雨が降ったり、やんだりする9月15日の朝10時半頃。明大ラグビー部3年の萩井耀司は、世田谷区内のグラウンドで全体練習を終えた。
ゴールキックの個人セッションに取り掛かる。終始、フィールドの左隅から足で放物線を描く。
3日前に挑んだ公式戦で、9本託されたコンバージョンのうち7本を外していた。「もともと練習はしていたんですが、その質が低かった」と、取り組み方を変えた。
「それまでは(様々な角度から)本数を決めて蹴っていたんですが、『きょうはこっち(ひとつの方角)だけ、あしたは向こう』という感じにしていこうと。試合が終わってからそう思いました。1本、1本に集中したいのと、『どういうフォームで綺麗に決まったか』について意識してできる(のがその理由)」
見守っていた新監督の高野彬夫に、適宜、見本を示され、ひとつひとつの動作を確認する。
「蹴る前から身体が開いていたのを閉じて、蹴った後のフォロースルーをまっすぐに。そう言われました」
フォームを固める意味合いは大きい。
「(直近のゲームの前までは)何となく蹴ってしまうことが多かった。そして試合になって1回、外した後に、どう修正すべきかを考えられなかった。それも、練習(の質)のせいなので」
件のゲームは青学大戦。関東大学対抗戦Aの初陣である。フィールドを問わずパスとランを多用したディフェンディングチャンピオンの明大が、昨年度7位の相手を70-5で下した。12トライの猛攻を披露した。
司令塔のSOとして59分間プレーした萩井は、チームの出来には好感触を抱く。
「皆、緊張していた部分はあるのですが、アタックでもディフェンスでもドミネートしようとした結果、入りもよくて。中盤に少し(失点するなど)ごたつく場面はありましたけど、ハドル(円陣)を組んで『接点(ボール争奪局面での激しさ)に立ち返ろう』と。初戦にしてはよかったのかなと」
身長172センチ、体重79キロのプレーメーカーは、WTBの海老澤琥珀、副将でFBの竹之下仁吾ら上級生を普段通りに敬称なしで讃える。
「BKでもスペース共有を意識してできています。琥珀、(3年生WTBの白井)瑛人、仁吾が指示してくれる。すごくやりやすいです。…いい関係、築かせてもらっています!」
自身と同じ位置には、伊藤龍之介がいる。7シーズンぶり14度目の大学日本一になった昨季の立役者で、4年目の今季は代表関連活動に時間を割く。7月4日に日本代表デビューを果たし、そのままジャパンで10番を着続けている。集団の方針に沿ってタクトを振り、要所で持ち味の走力を活かす。
ずっとポジション争いをしてきた先輩が世界で戦っている現実を、後輩はこう見る。
「去年の明治は龍之介のチームでした。で、ジャパンも龍之介のチームになっているんだな、と感じます」
その伊藤龍は、対抗戦開幕後も代表活動に参加する。萩井は「(自らがプレータイムを増やす)チャンスだとは思います。ただ、その分プレッシャーもある。…そこらへんは考えすぎずにやっていますね」。ここまで話すと、微笑んで付け足す。
「…お母さんから見たら、『あんた、気負いすぎやで』と。…そういうの、出ちゃっているのかなと。ただ、僕自身は、あまり気にしないようにしています」
自分は自分。あくまで、目下の明大の10番として責務をこなす。同時に、晩秋以降になりそうな好敵手の合流を心待ちにする。
「自分もジャパンでプレーしたい。龍之介を超えたい気持ちはあります。勝負(したい意欲)もありますし、色々と学びたいとも思っています」
大阪の吹田ラグビースクールで競技を始めた。経験者の父の影響だ。家族には、いまなお試合を見に来てくれる。
親元を離れて久しい。神奈川の桐蔭学園高に越境入学したからだ。寮に暮らし、3年時にはレギュラーのSOとして高校日本一に輝いた。選手主導でミーティングを重ねる文化に触れ、司令塔の判断で勝負を左右する皮膚感覚を磨いた。
目指すスタイルを問われ、「誰かをまねするのではなく、僕、を、作りたい」。卒業後のリーグワン行きを視野に入れ、こう展望する。
「パス、キック、オーガナイズでFWを前に出してあげて、1点差でも必ずチームを勝たせる10番になりたいです」
翌日は、左隅とは別の角度から蹴り込むつもりだという。
