人生初のタイトルは、スイスで獲った。
今年5月30日、スイスの国内最高峰リーグ「LNA」(ナショナルリーグA)の決勝があった。
最終スコアは40-39。ロスタイムで勝負が決まった、イヴェルドンとの激闘を制したのはスタッド・ローザンヌだ。
実に40年ぶりにスイス王者となった。そんな歴史的一戦を終えて歓喜に沸く輪の中に、日本人の姿があった。
ドラゴンこと、渡辺龍だ。
京産大出身。その愛称は恩師の廣瀬佳司監督が名付けた。
「後輩に同姓同名がいました。しかもポジションは同じプロップで(笑)。廣瀬さんに感謝です。向こうではRYUだとなかなか覚えてくれませんから」
タイトヘッドPRのレギュラーを張った4年時には、家村健太(現・静岡ブルーレヴズ)、福西隼杜(現・コベルコ神戸スティーラーズ)ら同期とともに国立の舞台に立った。
卒業後は第一線から退き、寺田倉庫に就職。アートやワインなど希少性の高いものを管理するだけでなく、展示、販売、そして街づくりまで手掛ける同社で働くうちに「ラグジュアリービジネス」に興味を持った。
「見た目や機能も同じに感じる商品が、あるブランドでは数倍以上の価格が付けられていますよね。でも、人はその価値を自然と感じて購入する。これはすごく面白いなと。どうすればその価値を感じてもらえるのかを設計したり、どういう思いで作られたのかというストーリーや技術、デザインを通して憧れを生み出していく。この考え方を本気で学びたいと思いました」
一方、国内で学べる環境は限定的だった。スイスにラグジュアリーやホスピタリティに特化した大学「グリオン」があるとみるや、留学を決意。2025年5月に寺田倉庫を退社し、その1か月後には語学留学のためにイングランドへ渡った。
ラグビー発祥の地ではあったが、再びラグビーの世界に足を踏み入れるとは思わなかったという。
「まったく英語ができなかったので、目指すと決めたはいいものの海外の大学院に行くことは想像もつきませんでした。なので、ラグビーなんてやる暇はないなと。ただ、スパイクだけは持っていっていました」
ホストファミリーの勧めもあり、地元クラブのシェルフォードに「アポなし」で訪ねる。
はじめは子どもたちや年長者とのタッチラグビーに興じていたが、日に日にラグビーへの熱が高まっていることに気づいた。
「ネイティブの人たちと交流する機会を作ろうと思って入ったのですが、ある方がトップチームでもやれるではないかと。監督も認めてくれて、シーズン開幕直前でレギュラーに選んでいただきました」
試合後には対戦相手と酒を酌み交わし、友人になれた。「いろんなネットワークを広げることができた」と、本場のアフターマッチファンクションの価値を体感。だからスイスに渡ってからも、すぐさまラグビークラブを探した。
「その国でラグビーをすることがどれだけ価値のあるものなのかをイギリスで実感しました。チームへの溶け込み方も分かっていたので、スイスではスムーズに入れましたね。国内1部リーグということは入ってから知りましたが(笑)」
今年3月から大学院生としてグリオンに通いながら、放課後はスタッド・ローザンヌに足を運ぶ。
チームメイトは主にスイス人とフランス人で構成され、銀行員や国際オリンピック委員会の(IOC)職員、ベンチャー企業の社員、学生など多様。代表選手も複数名在籍している。
授業こそ英語だがクラブではフランス語で会話が飛び交うため、「まったく分からない」と苦笑する。
しかも、PRは両サイドに代表候補選手がいたため、HOでのプレーを求められた。
「HOは高校で少しかじった程度でした。ラインアウトのサインもフランス語なので聞き取れないし、なかなか覚えられなかったです。ただ、スクラムは京産であれだけやってきたので負けるはずがないと。どういう方向に押すのか、フッキングをどうやるのかは、後輩のスノン(李淳弘/現・リコーブラックラムズ東京)に聞きました」
加入したのはリーグ最終盤だったが、すぐさま先発に名を連れた。
チームは8勝6敗の3位でプレーオフへ(8チームによる総当たり戦を2回おこない、勝ち点の上位4チームがプレーオフ進出)。
決勝の相手は連覇を狙うイヴェルドンだった。
リーグ戦を13勝1敗で駆け抜けた優勝候補筆頭だったが、渡辺は試合前の仲間たちから特別なものを感じ取っていたという。
「みんなの表情や熱の入り方から、どれだけ本気かが伝わってきました。そうした環境に入れてもらったからには、僕もこのチームのために身を捧げる覚悟を持たないといけないと思いました」
試合は取られたら取り返すPGの応酬に。チャンスの回数は相手の方が多かったが、その度に決死のディフェンスを見せた。
「何回かトライされかけたけど、ノットグラウンディングで止められた。チームとして意地を見せられました」
逆転の決勝トライはロスタイムまでもつれた。40-39。最後に勝ち切れたわけを、「ファンやサポーター、チームメイトのおかげと言うのはきれいごとに聞こえるかもしれませんが、今回はホンマにそうでした」と破顔した。
「ラグビーを通じた経験は、本当に予想できません。異文化に揉まれたり、不便さを楽しんだり、すごく学びが多いです。今後の人生の糧に間違いなくなります」
グリオンでは1年半のコースに在籍しているため、9月から開幕した今季はシーズンの最後まで在籍することは叶わない。
それでも、残された時間で全力を注ぐ。それが最大の恩返しだ。
