最終学年では特に気合いが入る。本橋尭也は大学4年生になった。
名は「たかや」。帝京の副将についた。
「目標は大学選手権の優勝です」
182センチ、88キロのSOでもある。
今年1月、大学選手権で帝京は早稲田に敗れた。62回大会の準決勝は21-31。帝京は2回目の5連覇の夢をくじかれた。
この秋、雪辱のシーズンを迎える。
本橋はアイドルグループの一員のように目鼻立ちはくっきりしている。ラグビーになれば目つきは鋭く、気迫がみなぎる。
タックルバッグを寝かせた上でやる1対1のボール争奪戦では相手を寄り切る。ベンチプレスの最高は155キロ。昨冬より15キロ数値を上げた。
「去年から、個人的にウエイトトレーニングを重点的にやっています。元々はケガをしない体作りが目的ですが、当たり負けもしなくなりました」
ランニングの評価は元々高かった。練習も含め、精力的に視察する鈴木力は評する。
「自分で切り込んでゆけるSOです」
鈴木はS東京ベイのチームディレクター。選手採用の現場責任者でもある。
本橋自身もそのことを強みと捉えている。
「空いているスペースに走り込みます」
そのアクションは自分の前をよく見ていることにほかならない。英語で<Search>と言われる能力はSOに不可欠だ。
OB監督の相馬朋和には期待がある。
<森山と本橋は日本代表になれると信じています>
そんな文章が送られてきた。森山飛翔(つばさ)は右PR主将。出身高校は同じ京都成章である。
本橋はすでに日本代表の合宿に呼ばれている。2年時に日本代表およびその下に位置するJAPAN XVの合宿に呼ばれた。パシフィック・チャレンジ2024に参加。高校やU20の日本代表の肩書は手に入れている。
この春、帝京は春季大会も含め、10戦全勝としてシーズンを終えた。昨秋の関東対抗戦は4位だったため、グループ分けは二番手のBだった。その状況でも、前年度、大学選手権優勝の明治に40-19と大勝した。
4強戦で敗れた早稲田にはアウエーの上井草で33-32と1点差勝利をつかむ。
「すべての試合に勝って反省できることはいいことですね。早稲田戦も粘り強く戦えたと思っています」
本橋は振り返る。
この帝京のラグビー部には、本橋の2つ上の兄、拓馬も在籍した。今は神戸Sにいる。チームは先のシーズンでリーグワン優勝を果たした。兄は193センチのLO。JAPAN XVを経験している。
本橋は兄を追いかける。西神戸ラグビースクール、京都成章も同じだった。
「兄がいたし、見学したら楽しそうでした」
このスクールには幼稚園の年中に入り、中学卒業まで在籍した。
京都成章では開催会場から「花園」と呼ばれる全国大会には3年連続で出場した。2年時はFB、3年時はCTBやSOに上がり、森山と共同主将をつとめた。最終学年は102回大会(2022年度)。準決勝で東福岡に17-45で敗れた。東福岡は優勝する。
本橋にとって印象深いのはその直前、8強を争う大阪桐蔭戦だった。15-12で降す。
「接点で勝ち切れたのが大きかったです。アタックは小さいパスをつなげました」
パスを教えたのはOBの清水晶大。クリーンファイターズ山梨のSOでもある。
帝京では1年生から公式戦出場。2年生からSOのレギュラーになる。2年連続で大学選手権を制した。だからこそ、昨年の負けは大きい。そして、この深紅のチームの歴史はまた勝利にこだわった反骨の歴史でもある。
創部は1970年(昭和45)。大学選手権の優勝は最長9連続を含む13回だ。これは歴代3位。最多16回の早稲田、14回の明治に続く。他校が100年かかったところを帝京はその半分で成し遂げた。快挙である。早稲田の創部は1918年、明治のそれは4年後である。
帝京は「新興」と呼ばれた。関東対抗戦はラグビーの基本である定期戦が組み合わさってできた。試合を組むには相手校の了承を必要とした。慶應との一戦は組まれていなかった。この黒黄ジャージーの創部は1899年。日本ラグビーのルーツ校である。
関東対抗戦が今のリーグ総当たりの形をとるのは1997年秋。30年ほど前である。そこで初めて帝京×慶応の公式戦が始まる。監督として9連覇に導く岩出雅之(現・顧問)の就任と相馬の入学はその1年前だった。
帝京が「新興」を取り去り、早慶明などの名門校に認められるには勝つしかなかった。反骨である。負けて、「よくやった」はない。練習前にグラウンドの周囲に<嘔吐用>と書かれたバケツが置かれるのは、その勝利にこだわる伝統と言っていい。
そういう歴史も踏まえ、今、帝京と慶應の間には4年生の卒業試合が組まれている。
<私が監督になってからは、クリスマスのあたりでやっていだいております>
相馬の一文はうやうやしい。慶應の昨年の最終試合はこの卒業試合になった。
帝京は今年、創部から57年目。10戦全勝に続き、今月12日、ジャパンセブンズ2026でも3連勝して優勝する。この大会は7人制の国内最高峰である。幸先はいい。
本橋は昨年、日本一になれなかった理由を自分なりに考える。
「4年生にすごく頼っていました。もっと自分たちでできたのではないかと思います」
下級生も当事者意識を持ち、一体感を養いたい。そのための夏合宿は来月10日から29日まである。16日に早稲田、19日に天理、25日には明治との試合が予定されている。
本橋は長野・菅平でチームを森山とともにまとめ上げ、帝京の歴史をまた1年延ばしてゆく。そこに歓喜を注入すべく奮闘する。
