今年もレフリーとして日本代表合宿に参加した。
「毎日のように『こんなに素晴らしい仕事があるだろうか』と思っています。選手の時も幸せでしたが、レフリーをしているお陰で本当に世界が広がりました」
充実した表情でそう語るのは、189センチ、100キロの肉体を誇る栃木ホンダヒート(前三重ホンダヒート)の元LO/FL、31歳の近藤雅喜レフリーだ。
リーグワンのレフリーパネルとして2025-26シーズンを担当後、ジャパン宮崎合宿に参加した。選手として日本代表合宿に招集された経験はないが、エディー・ジョーンズHCには明治大学時代のU20日本代表合宿で会ったことがある。
選手としては未経験のジャパン合宿にレフリーとして関わる――。あらためてレフリーという職業に感謝している。
「昨年(2025年)のサマーキャンプから日本代表合宿に参加させていただいて、昨年の秋も参加して今年も引き続き、という形です。U20(日本代表)でコーチとして関わっていたエディーさんと、今はレフリーとして関わるのは不思議な感覚です。レフリーを始めていなければこの場所にいないでしょうし、すごく価値のあることだと感謝しています」
「日本代表合宿はレフリーとしても成長できる場です。クレバーに動きながらハードワークする代表のセッションを吹いていると、レベルアップを実感できます。日本代表の超速ラグビーは『早く動く』『早く仕掛ける』『そのために早くポジショニングする』という言わばシンプルなコンセプトで、選手もコミットしやすいですし、雰囲気の良さも感じています」
昨季リーグワンはレフリーに本格転向して2シーズン目だった。レギュラーシーズンに加え、自身も選手時代に経験した入替戦などを担当した。
シーズン後の現在は、担当した全試合をレビュー中。レフリーのスタッツデータを参考に、開幕節と最終節で比較するなどしている。判定精度の向上は継続したい一方で、レフリーとしての確かな成長も実感している。
「『レフリーとしての成長』の言語化は難しいですが、完全転向後の2シーズン目は以前になかった余裕が生まれ、ディシジョン(判断)のスピードであったり、選手とのコミュニケーションの質は成長した実感があります。余裕が生まれて視野が広がった分、引き出しが増えて一つひとつの事象に対して様々なアプローチができました」
「こうした点と点が上手くつながって全体のゲームマネジメントにつながっていく、という感覚は以前になかったものです。ただ来シーズンはもっと高い一貫性が求められると思っています」
昨季はトップ選手からの転向という道を作った先駆者、滑川剛人レフリーが引退。昨季レフリーパネルにおける元トップ選手は近藤レフリーのみとなった。
当然ながら、レフリーがいなければラグビーは競技として成立しない。そのレフリーの増加と精度向上は、日本ラグビーの発展に関わってくる。第2、第3の“挑戦者”“転向者”が待たれる状況だ。
「トップレベルでプレーしていたことの利点はたくさんあると思っています。たとえば試合の“予測力”。モールで押されているチームがいたとしたら、そのチームは次のラインアウトで『モールを壊す』か『サックしてモールを作らせない』ようにする可能性が高い。そのほかの細かい予測にも経験が生きている感覚があります」
所属チームにも大きな還元がある。
「ありがたいことにチーム(ヒート)に所属させてもらっていますが、そのチームへの還元という意味では、ワールドラグビー(国際統括団体)などが考えていることをタイムリーにチームに落とすことはできます。またチームの反則傾向などについてもコーチ陣と日々コミュニケーションしています」
チームレフリー側への恩恵も大きい。日々の所属チームでトレーニングができる他、トップチームの練習で精度を磨くことができる。
トップコーチと日常的に交流できる利点もある。
レフリーはバックス出身者が多い傾向にあるが、近藤レフリーはフォワードのバックファイブ出身。毎試合第2、3列で組んできたスクラムはこだわる領域だ。ヒートには心強い日本人スクラムコーチがおり、近藤レフリーのスクラム理解の後押しとなっている。
「私としてはスクラムにはこだわっていて、チームには斉藤展士さんというスクラムのスペシャリストがいるので、コーチが考えていることを日々教えてもらっています」
「スクラムの判定はレフリーとして非常に難しい領域で、フロントローの選手たちさえスクラムが崩れた原因を把握していない場合があります。実際に以前フロントローの選手に『あれはどっちが崩したのか』と聞いたら『わからない』という答えが返ってきました。そうした難しさと向き合いつつ、斉藤コーチに意見を求めながらスクラムのプロセスの解像度を高めています」
具体的に、近藤レフリーはスクラム安定のためにどんな声がけをしているのか。
「情報量が多すぎると選手が混乱すると思っているので、レフリーの自分から見えていることだけをシンプルに伝える、ということを心がけています。『中で複雑なことが起きているなら言ってほしい。ただ、私から見えているのはこういう事象です』とシンプルに伝えています」
コミュニケーションでいえば、レフリーには感情のコントロールも必要になってくる。
選手の興奮につられて同じように熱くなり、同じ土俵に上がってしまっては冷静なディシジョンが難しくなる。しかし怒りは人間の自然な感情でもある。近藤レフリーは試合中の「感情」とどう向き合っているのか。
「感情の起伏があるのは人間として当然ですが、レフリーをやる以上、それを外に出すのは違うとも思っています。一方で『見せていい感情』があるとも思っていて——例えばスクラムで『いいスクラムが見たいんだ』という気持ちを選手に伝えることは一つの感情の表現だと思います。フロントローの選手はみんな良いスクラムを組みたいと思っていて、そこを引き出すための手段として、『見せていい感情』は伝えています」
感情を封印するのではなく、レフリーとしての感情を「見せていいもの」と「見せてはいけないもの」に仕分けして適切に伝えている。
あらためて、ラグビーレフリーはタフな仕事だ。
シーズンは自主トレをしながら週明けから月曜日、火曜日でレビュー。水曜日には全体ミーティング。メンバー発表のある木曜日から担当者間で情報共有・準備を始め、遠地の場合は金曜日に移動。週末の担当試合ではバックス並みの走行距離を走る。迎えた試合の主役はプレイヤーに譲る一方で、敗れたチームのファンから敵意を向けられることもある。
だが近藤レフリーは、そのタフさが魅力なのだと語った。
「笛を持つことの重大さは試合を重ねるたびにどんどん増しています。試合にはチームや選手のキャリアが掛かっていますし、私は選手として入替戦などを経験しているので、試合の重みは痛いほどわかります。ですので、レフリーとして笛に責任を持つのは当然だと思っています」
「レフリーは常にタフな立場です。楽なシチュエーションはないと思っています。タフさがわかった上でこの仕事をしていますし、自分にとってはそのタフさが魅力でもあります」
重大な責任と向き合う人は、自然と魅力を帯びる。最近は試合後に子ども達から声を掛けられるようになった。選手としてではなく、レフリーとして。
近藤レフリー、応援してます――そんな声を掛けられるたび、2児の父親でもある近藤レフリーはエネルギーをもらう。
「最近は試合会場で小学生、中学生の子どもたちが声を掛けてくれることが増えてきました。秩父宮の試合後、『スクールでレフリーはじめました』と声をかけてくれた子もいました。とても嬉しいことです」
7月4日(土)に秩父宮ラグビー場で行われるネーションズチャンピオンシップ2026の「日本代表×イタリア代表」は、オーストラリア協会のニック・ベリー氏がレフリーを務める。近藤レフリーが憧れる世界的レフリーだ。
近藤レフリーの目標は「世界に出ること」。自分も国際舞台で活躍するレフリーになりたい。そのために、リーグワンの舞台に立ち続け、責任と向き合い、日々チャレンジを続けていく。
