リコーブラックラムズ東京の中楠一期は、5月23日からしばらく寝つきが悪かった。
その日は東京・秩父宮ラグビー場で、加盟するジャパンラグビーリーグワン1部で初出場のプレーオフを戦い終えていた。
準々決勝。対する東京サントリーサンゴリアスに一時つけられた17点差を、徐々に挽回し、終盤、逆転も、終了のホーンが鳴ってから白星を手離してしまった。
後半40分、敵陣10メートル線付近右からのペナルティーゴールを失敗。反撃の機会を与える。その後、味方の守りに反則が重なり、ロスタイム44分に逆転トライを許した。
35-40で敗退を決める数分前、ペナルティーゴール以外のプレーを選ぶ権利もあった。ゴールを狙うジャッジが妥当だったかについて、グラウンド内外で議論が生まれた。
当事者の中楠はどう捉えるか。あの日から約3週間後にあたる6月13日、都内でこう漏らした。
「終わった後は、1週間くらい悔しくて眠れませんでした」
もっとも、「選択の正解か不正解は、結果論でしかありません」。ゴールが決まっていれば点差を広げて白星を掴んでいたし、成否にかかわらず敵陣の深い位置へ侵入できるのは間違いなかった。貴重な1本を仕留められなかったことへの自責の念と、意思決定についての冷静な振り返りは別物だと捉える。
そもそも、歩みの全てを否定するつもりはない。レギュラーシーズン中は12チーム中最少の反則数を記録して5位となった。ノックアウトステージでも、旧トップリーグ時代に優勝経験のあるサンゴリアスをあと一歩のところまで追いつめた。
自身も司令塔のSOとして主戦級に定着し、適宜パス、キックを使い分けるゲームメイクで味方を前に進めてきた。ペナルティーゴールをはじめとしたキックも冴え、最後まで得点王を争っていた。
身長174センチ、体重85キロで2023年入部の26歳は、このように発した。
「悔しい終わり方でしたけど、これだけ勝利を重ねられたのは初めて。個人にとっても、若い選手が成長したチームにとってもいいシーズンだったかなと。収穫は色々とあります。一番大きいのは、自分たちが勝てるチームであると証明できたこと。優勝を目指すことが現実離れしていないという、自信みたいなものが芽生えました。一貫性、ディシプリンも根付いてきました。さらに上にいくには、その質をより磨く」
今年12月開幕の来季を見据え、自己改革に励む。
話をする数日前、日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチから電話をもらった。通訳を介し、10日発表の代表メンバーに名前が入らないと伝えられた。
一昨年からスコッドに加わり、昨年7月に代表戦デビューを果たしていたなかでの落選だ。スマートフォンの向こう側へは「もう少し、レビューのディテールが欲しい。時間をください」と返答した。
「別に(選出漏れに)不服だったわけではなく、色んなことを知っていて(複数国代表を率いるなど)実績のあるヘッドコーチに、自分の成長のために詳しく聞きたいと思ったので」
改めて時間をもらい、次なる進歩へのヒントを聞き取った。
流れのなかでのキック、仕掛けについて、より質を上げてほしいと告げられた。
過密日程下、強度の高いセッションに励むのが代表キャンプの特徴。若者の底力を引き上げる場として知られるその空間に立ちあえないのを、中楠は、自分の行動でポジティブに切り替える。
拘束時間が限られるオフ期間は、肉体強化やゴールキックに関する複数の専門家に師事し、個人の能力を底上げする。
「代表活動も素晴らしい機会ですが、その予定がないからこそ自由にトレーニングができる。それを活用し、しっかり成長したいです。シーズン中にどこか身体が悪ければ(試合への調整のため)トレーニングを制限しなくてはならないですが、いまはそういうことを考えなくていい。いっぱい、やり(鍛錬し)たいです」
この先、日本代表に招集されるケースへも「準備はしておくようにと言われている。いつ呼ばれても状態を作る」。一方、長い間ひとりで鍛えることになってもよりよくなれるつもりだ。
「もっと、パフォーマンスは上げられる。(様々なエキスパートに)色々とサポートをしてもらいながら、自分の最大値を作っていきたいです。自分がどうなればいいのかが明確にあるわけではなく、そういうの(答え)を持っている人は他の場所にたくさんいます。視野を広げ、新しいものを採り入れたいです」
己のキャパシティを広げる。
