漆黒の闇が、あまたの照明で一瞬にして真っ赤に染め上げられる。ラグビーのナイター試合とは思えない。
赤はレッドハリケーンズ大阪のチームカラー。ファンサービスで配られたペンライトが打ち振られ、その赤みがさらに強調される。
南側の電光掲示板の下にはALESSA(アレッサ)が登場する。この人気DJの先導で音楽が流れる。クラブの雰囲気も漂う。
試合会場はヨドコウ桜スタジアムだった。略称「RH大阪」のホームだ。3月27日の午後7時。試合開始時刻である。
対戦相手は九州KV。チームディレクターだった村上泰將は讃える。
「場内演出のレベルが違います」
リーグワンのディビジョン2(二部)では間違いなく図抜けている。
RH大阪でホームゲームの場内演出を担当するのは才口將太である。
「非日常を考えています。ただラグビーを見てもらうだけではない、ということですね」
不惑を迎えた才口の頭にはディビジョン1をも凌駕する演出が浮かんでくる。
才口はチームのマーケティングリーダー兼広報だ。出身は同志社大。このチームのOBでもあり、現役時代は速さとキレのあるFBだった。才口を補佐するのは新井慶史。パートナーシップの担当である。
この非日常は連携協定によってさらに拍車がかかった、と言える。昨年4月、RH大阪は本拠とする大阪市の全24区と連携協定を結んだ。最後は中央区だった。練習グラウンドがあるのは住之江区だ。
連携協定は<スポーツの普及などを軸に豊かな地域社会の形成と発展に寄与する>と定めている。その連携協定に基づき、初めてラグビー観戦に来た人々でも楽しめるように知恵をしぼる。九州KV戦ではペンライトと一緒に赤のナップザックも手渡された。
この非日常が実施されたスタジアムの名称は、年度初めから<YANMAR HANASAKA STADIUM>に変わった。ここはサッカーJ1のセレッソ大阪の本拠地だ。細長い電光掲示板、リボンビジョンなどラグビー場にない設備はサッカーの余慶と言えなくはない。
才口は言う。
「九州KV戦がシーズンを通して、演出としては一番でした」
セレッソ大阪の関係者も観戦した。
「このレベルの照明はJ1でもなかなかない、と言ってもらえました」
細く光る目はさらに細くなる。
その場内演出にビジネスとして協力したのは<TOROMI PRODUCE>(とろみプロデュース)。高校ラグビーに携わっている大阪のMBS(毎日放送)の社内ベンチャーとして始まった。料理系番組の製作が主だったが、今では映像コンテンツなども請け負う。
才口らはアクシデントが起こらないように、予行演習をきっちりやった。
「電圧が耐えられるか調べました」
このスタジアムは街中にあるため、照明が外に漏れるのはよろしくない。
「オペレーターさんとチェックしました」
非日常を演出するため、万全を期した。
この3月27日は晴天だった。
「ラグビーはスタジアムスポーツなので、天候に左右されますが、アリーナスポーツと同じように創り上げることができました」
運も引き寄せた。才口は費用を口にする。
「予算内に収まっています。高くありません」
範囲内で最上のものを創ってゆく。
元々、RH大阪はファンの掘り起こしに力を入れて来た。6年前には、女性アイドルグループ<NMB48>のメンバーだった渋谷凪咲にチームアンバサダーに就任してもらう。渋谷の兄・拓希は帝京大のラグビー部出身。PRだった。
その場内演出において、自チームの思いのみを乗せることはない。ホームゲームとシーズンの最終戦は5月11日に重なった。対戦相手はGR東葛だった。
GR東葛は保有するNECがチーム経営から撤退することを昨年8月、発表した。創部は1985年(昭和60)。今はなくなったが、日本選手権の優勝は3回あった。シーズン最終の大会で大学なども加わり日本一を決めた。
4か月後、JR東日本への譲渡が発表された。この5月11日はNECの持つチームとしての最終戦だった。才口は振り返る。
「この日は照明を入れませんでした。NECに敬意を払いました」
九州KV戦のような赤に染めない。GR東葛のチームカラーは深緑である。
才口は自らの過去を引き出す。
「我々も再編を経験しています。不安を持って過ごす日々を送りました。境遇は一緒です」
リーグワン2季目前の2022年、NTTチームは再編され、RH大阪は社員選手中心、浦安DRはプロ選手中心になった。さらにディビジョン3からのスタートになった。
最後は立派に送り出したい。その思いが過度な場内演出を控えさせた。選手入場では事前に告知して応募してきたGR東葛のファンに花道を作ってもらった。チアリーダーの「SPARKLES」(スパークルズ)もアウエーにも関わらず西下(さいか)する。
最後にかける気合いはすさまじく、RH大阪は5-42で敗れた。試合後の記者会見に才口は出席した。
「感謝を話してくれました」
負けたとはいえ、ヘッドコーチ(監督)のグレッグ・クーパーらGR東葛にその意図が伝わった。その喜びはあった。
最終的にRH大阪は8チーム中6位でシーズンを終えた。昨季より順位をひとつ下げた。勝ち点は29。14戦6勝8敗だった。
才口は次のシーズンを見据える。
「チームにもっと力を与えるような、さらなる非日常体験を演出してゆきたいです」
不本意な結果だったが、才口は与えられた場所で全力を尽くした。この先もそれは変わらない。RH大阪は大きな戦力を得ている。
