アンニュイな風情で明確に意志を表すのは松島幸太朗。5月23日、東京・秩父宮ラグビー場で東京サントリーサンゴリアスの15番をつけた。国内リーグワンのプレーオフ準々決勝に先発した。
前半終了までに17点リードも対するリコーブラックラムズ東京に追い上げられ、後半38分に33-35と勝ち越されたのを「自分達で首を絞めて…」と表現した。
密集近辺やスクラムで笛を誘い、ハーフタイム以降の反則数を10に増やしてしまった背景を指してのことだ。
「ボールを獲りたい、獲りたいという意識が強すぎた。それによるペナルティー(が増えた)。修正しきれなかったのは残念。勝って反省できるのはポジティブかなと」
そう。自滅と取れる展開にあっても負けなかった。ふいに訪れたチャンスを逃さぬ心構えと技術があったからだ。
ラストワンプレー。ブラックラムズがサンゴリアス側の陣地でペナルティーキックをもらう。
複数ある選択肢から選んだのはペナルティーキックだった。決まれば3点を追加できるとはいえ、距離が足りなければ相手に攻撃権が渡りやすい。蹴る地点は10メートル線付近右とポールよりやや距離がある。
それまでブラックラムズに分があったスクラム、深いエリアまでタッチキックを蹴り込んでからのラインアウトがチョイスされるよりは、サンゴリアスに幸運が訪れそうだった。少なくとも、日本代表55キャップの松島はそう思った。
「最後の最後にこの選択をするのは意外だな、と。僕たちとしては本当にラッキー」
願えば叶うという精神の表れであるのを前提に、こう述懐する。
「皆、もう逆転する気満々で(ボールが落ちそうな場所に)ポジショニングしていますし、(向こうがゴールを)外す前提で動いていました。(ショットを決めるには)結構、難しいところだったので、これはいけるぞと」
放たれたキックは成功に及ばず、トライゾーンにいた松島の手元へ落ちてきた。首尾よく捕球した身長178センチ、体重88キロの33歳は、加速した。
「自分たちが得をしやすいように、とにかく前にボールを運ぶことを意識しました」
サンゴリアスのラストアタックが始まった。ブラックラムズが前衛を厚くしてラン、パスを警戒するなか、SOのケイリブ・トラスクを軸に左右に球を散らした。
そのさなかにブラックラムズのペナルティーを引き出し、スムーズに敵陣ゴール前まで侵攻できた。そのうちの決定的な局面は、松島が作り上げた。自身の力強い走りで、向こうの長身選手のハイタックルを誘っていた。
「(前方に)スペースはなかった。(ブラックラムズが敷いたのは)僕たちが蹴るという選択肢がないと思ってのディフェンス。全員が前にいた。まずしっかり固めてボールを死守する(と意識)」
まもなく味方CTBの中野将伍の中央突破が生まれ、最後はSHの福田健太の切り込みとPRの森川由起乙のサポートなどで7得点。40-35で2シーズンぶりの4強入りを決めた。
5月30日には秩父宮ラグビー場で準決勝に臨み、その結果次第で決勝もしくは3位決定戦に挑む。クライマックスをどんな季節にしたいかと問われ、「(今季で)引退する選手もいます。最後、皆で笑えるように。諦めない気持ちを(抱き)続けていきたいです」。ノックアウトステージでひとつ駒を進めた価値を深く理解する。
