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ブレイブルーパス・伊藤鐘平、メンバー漏れで感じた「K9」の心意気

2026.05.18

伊藤鐘平[BL東京/LO]©︎JRLO

 お見通しだったのだろう、と察した。

 伊藤鐘平は昨夏、ラグビー日本代表に選ばれた。ナショナルチームでパシフィック・ネーションズカップへ挑むツアー、秋のキャンペーンに帯同した。

 約9年ぶりに復職して2季目だったエディー・ジョーンズヘッドコーチのもと、新たな地平を見た気分だった。

「国を代表して戦うので、正直、楽しさはゼロに近い。その空気感、レベルに触れられたのはいいことです。エディーさんと活動できたこともプラスです。細かいミスはすぐに指摘してもらえる。ミーティングへも戦術について(予め)勉強していかないといけない。全てにおいて準備しないと試合には出られない感じがありました」

 お見通しだったのだろう、と察したのはここから先のことだ。

 最後の遠征先だった欧州から帰国し、所属する東芝ブレイブルーパス東京へ合流した。

 12月からのジャパンラグビーリーグワンでインパクトを残し、’26年以降の代表で念願の初キャップを掴もうとした。

 ところが一時は故障に泣き、戦列復帰してもなお焦りが拭えなかった。その心のうちを、チームのトッド・ブラックアダーヘッドコーチに見抜かれたのだ。

 1対1で指摘された。

「昨季のパフォーマンスと比べると、物足りない」

 第4節から4戦続けてプレーした後、主力のグループから外れた。「K9」と呼ばれる控え組へ回り、己の強みを問い直した。身長190センチ、体重108キロのハードヒッターは、ひたむきに身体をぶつけた。

 生来の激しさを再アピールするなか、他の「K9」に共感した。

 高城勝一、亀井茜風、木戸大士郎といった、自身がプレーするFW第2、3列の若手がユニット練習や実戦形式のセッションでエナジーを発露させていた。

 いつも週初めには、土日に組まれる公式戦のメンバーが内々に決まる。選から漏れた面々は、その時点より「K9」となって対戦相手の模倣に努める。

 この簡単ではない立場で腐らず、何者かになろうとする同士たちに、伊藤は感化された。

「メンバーに入れずに辛い思いがあるなか、メンバーにプレッシャーを与えたり、声を出したり。腐っていないし、熱い部分をぶつけていた」

 折しも組まれたのが、「K9」を対象としたトレーニングマッチだ。

 府中市の拠点にリコーブラックラムズ東京のレギュラー予備軍を迎えた3月1日のその試合で、伊藤は背番号6とゲーム主将を任された。

「こいつらのためにも頑張ろう、ではないですが、そんな思いが強くて…」

 キックオフに先立ち、一緒にフィールドへ出る仲間へ発した。

<メンバー表を見て、自分の名前がなかった時の悔しさを思い出して。どんどん、やっていこう>

 この様子がクラブのSNSで公開される頃には、伊藤はその一戦での活躍を機にレギュラー組のリザーブへ昇格していた。

 ちょうどその頃は、第7節から始まった7連敗の只中だった。3連覇達成へのプロセスとしての失地回復へ、チーム本来の強みである衝突の凄み、プレー中の繋がりを取り戻そうとしていた。

 試行錯誤の一端を、トップチームへ再定着した29歳はこう言葉にする。

「負けだした最初のほうはセットプレーで…(苦しんだ)。その後はディフェンスのコネクションがよくなかったり、アタックでミスをしたりと少しずつ歯車が狂っている感じでした。練習ではいいのですが、試合では…という負の連鎖が起きていました。(改善へは)チームのベースとなることをやり続けること。やっぱり、東芝はフィジカルのチームです。スキルも強みですが、まずは接点で勝つことが第一条件。そうすることで、スキルがより活きてくる」
 
 狼たちの一員になったのは2020年だ。最終学年に主将を務めた京産大時代、いくつか声がかかったチームを見学して回ったうえで決めた。

 ブレイブルーパスの先輩方が深く関わろうとしてくれたからだ。

 そもそも、他のクラブの選手はその頃の自分のような学生の練習参加にさして興味を抱くようなことはなく、むしろそれが普通なのだと思った。

 それだけに、いまの所属先には感銘を受けた。

 当時のブレイブルーパスの採用でいまは事業運営部にいる望月雄太氏に熱心に誘われ、都内の施設に訪れると、食堂で年長者の森太志に「隣、来いよ」と招いてもらったり、ロッカー室で複数の先輩方に「大学はどうなの?」などと普段の生活に興味を持たれたりした。

 さらにトレーニングを済ませると、その頃プレーしていた現アンバサダーの大野均、現コベルコ神戸スティーラーズ在籍の小瀧尚弘に焼き肉屋へ招かれた。

 スティーラーズと言えば、現日本代表アシスタントコーチで当時京産大で指導していた兄の鐘史の出身チームでもある。実は弟もラブコールをもらい、検討していたが、兄には「(進路選択では)直感を大事にしろ」「俺のことは気にしないでいい」と伝えられていた。果たして肌に合いそうな環境を選び、いまに至る。

「練習はハードで厳しくて真剣なのですけど、それが終わると和気あいあい。これが、東芝の雰囲気なのかなと」

 トレーニングの強度と温かい空気感は、低調気味だった今季中盤あたりにも損なわれなかった。おかげで最終節を残し、6強からなるプレーオフ進出を決められた。伊藤も8試合連続で出場機会を得てきた。

 5月24日、東京・秩父宮ラグビー場でプレーオフの準々決勝に臨む。対するはクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。昨季の決勝戦で制した相手であり、今年度のレギュラーシーズンで自軍より3つ上回る3位についた難敵である。

 向こうは大型選手を揃えるとあり、フィジカルバトルは避けられまい。かねて「まずレギュラー(先発)で出たい。大きな目標はもちろんジャパン」と意気込んでいた伊藤は突進、タックル、接点でのファイトで影響を与えたいだろう。

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