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同期の後押しで決意の転向。ヒート・坂和樹のプロ1年目

2026.05.08

坂和樹[三重H/PR](筆者撮影)

 所属する三重ホンダヒートの全体練習が終わると、坂和樹は特訓を始める。
 
 鈴鹿市内にある専用グラウンドの脇には、トレーニングジムがある。ここで斎藤展士アシスタントコーチのもと、体幹をはじめスクラムに使う部位を鍛える。

 両手、両つま先をマットにつけ、膝を落として背筋を伸ばし、左右および真上からの重圧にもぐらつかぬよう姿勢をキープする。

 身長181センチ、体重105キロの28歳は微笑む。

「(概ね毎週)火曜が一番(全体練習で)多くのスクラムを組むので、そこでよくなかったところを鍛えてもらっています」

 移籍1年目だ。昨季終了後はいったん引退を決断も、競技を続けるに至った。それを機に、ラグビー専業のプロ選手となっていた。

 もともとは社員選手だった。明大からNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に入ったのは2020年。グループ内再編に伴い、‛22年からは浦安D-Rocksと生まれ変わった組織に身を置いた。

 前年度は肘を痛め、開幕からほとんど戦えなかった。シーズンが深まってきたら、自分が翌年度から在籍するのは難しいとわかった。下部との入替戦でメンバー入りしたが、その頃にはラストスパートを駆け抜ける思いでいた。

「受け入れるしかない。思い残すことはないように…という気持ちでした」

 ロッカー室を引き払うまでの間には、リタイア後にグループ社内で在籍する部署の希望を届けた。7月、新人時代に世話になった「ビジネスソリューション本部」に配属された。

 翻意させる存在がいた。

 シャイニングアークス時代から同期だった竹内柊平には、D-Rocksを辞めそうな時期からずっと「絶対、お前は(競技を)やったほうがいい」と背中を押してもらっていた。一緒に出たトレーニングマッチでいい動きができたこともあった。そもそもポジションを突進役のNO8からスクラム最前列の左PRに変えたのも、竹内の助言があったからだ。

 結局、ピリオドを打ち、新しい職場に親近感を覚えてもなお、九州共立大からトライアウト入団した情熱的な同期に感化された。

 7月、日本代表の右PRとしてウェールズ代表を倒す竹内を見て心が動いた。竹内がその直前にD-Rocksを去り、フランスのプロクラブとの契約を目指しているのは本人から聞いて知っていた。

 まもなく会社の上司に頭を下げたら、「いましかできないことだ。応援している」と励まされた。竹内の代理人に現役続行のバックアップを頼み、テスト入団の形でヒートに入ったのは8月のこと。12月の開幕へ、ほとんどのチームが補強を終えたタイミングだった。

 加入に先んじて、もともとヒートにいた斎藤にも連絡を取った。

 D-Rocksの前アシスタントコーチで、坂が最初に専門のスクラムを教わった恩人だったからだ。

 自分を後押ししてもらうためではなく、自分がプロになって然るべき立場なのかを判断してもらうためだ。

「無理と言われたら諦めようとも思っていました。言われたのは『結局は、自分(次第)だから』『社員と違って、ラグビーが全ての指針になる。不安がっているのなら止めた方がいい』です。やるんだったら、覚悟を決めてやらないと」

 新天地では、第5節で移籍後初のベンチ入りを果たした。それ以来、第17節までに計10度の出番を得た。

 初陣ではくしくも、竹内が新加入した東京サントリーサンゴリアスが相手だった。その後、対サンゴリアスの戦績は1勝1敗とした。第6、13節では、古巣のD-Rocksに勝利できた。

 他方、リコーブラックラムズ東京との第15節では5-49と大敗した。スクラムの対面だったパディー・ライアンには、「手数の多さ」を感じさせられた。

「最初と最後で、組み方が違っていると感じました。頭の置く位置とか。多分、(意図して)変えていると思うんですけど」

 手応えを掴んだり、反省したりしながら、ここまできた。

 スクラムの奥深さへ言及する。

「人(相手や仲間の)の形状もそれぞれ。常に一定のことをしていればいいスクラムが組めるかというと、そんなことはなくて。少しずつ、(周りに左右されない)自分の形というものを作っていきたいです」

 5月9日の最終節でも、それまでと同様に17番をつける。トヨタヴェルヴリッツとの今年度ラストゲームで、ベンチから出番を伺う。

 斎藤のもとでの個別の特訓は、D-Rocks時代から続く習慣だという。

 フィールド上のパフォーマンスで糧を得るという、新たな暮らしを選んだ28歳。立場を変えたことで、自ずと取り組む姿勢をも変えられた。トレーニング前のストレッチをより入念に、時間をかけておこなうようになった。

「ホンダで1番(先発)を勝ち取るには、スクラムを強みと言えるようになりたい。もっと自分から学んでいかないと…という気持ちが強いです」

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