走りを磨いている。
「ステップが見られている(警戒されている)とわかっていたので、きょうは当たりにいこうと思っていました」
石田吉平。身長167センチ、体重74キロと一線級にあっては小柄も、堂々と国際舞台に立つ。瞬時の加速、細かい足の刻みが持ち味だ。
‘24年までは長らく7人制日本代表に選ばれ、主将を務めたパリ大会を含め2度のオリンピックに出場。昨年には現在専念する15人制でも日本代表となり、計9キャップを獲得してきた。
国内リーグワン1部の横浜キヤノンイーグルスでプレーするいま、もともとの強みを保ちながらも直線的なランも意識するという。バージョンアップのためだ。
「身体を使って前進できるようにして、(攻めの)バリエーションを増やしたいです。当たるパワーがあれば相手の腰が引けて、よりステップを切りやすくなる」
5月3日、東京・秩父宮ラグビー場で国内リーグワン1部の第17節に出た。右端のWTBとして先発した。
三菱重工相模原ダイナボアーズを31-22で下し、今季6勝目をマーク。もっともチームの戦いから、「入りがよすぎて(序盤に21-0)、ペースダウンしてしまった」と修正点を見出した。何より、自分のプレーにも見直す点があると言う。
高く蹴り上げられたボールの競り合い、球を持ってからの鋭い動きで爪痕を残し、前半5分には長距離を走ってのトライも決めながら、こう振り返るのだ。
「(空中戦では)もう少し足が速かったら(最高到達点に)届く…というところもたくさんありました。もっと向上させたいです」
もっとも、心は充実しているような。自由意思で動いているからだ。
遡って第8節で、膝に大怪我を負った。シーズン終了後の代表活動も見据えて長期離脱と手術が見込まれたなか、本人は、メスを入れずに第14節から戦列に戻った。
トレーニングとリハビリで患部をカバー。いまなお状態は全盛時の「6、7割」ながら、「それでも評価して(試合の)メンバーに選んでもらえるのはありがたい」。一時最下位と苦しんだチームで献身すると決め、春を迎えていた。
決意のわけは。
「個人的なことなのですが、最近、映画を見て、『一日一生』という言葉を大切にするようになったのです」
ここでの「映画」とは、昨年上映の『栄光のバックホーム』だ。プロ野球の阪神タイガースで現役生活中に大病を患った、横田慎太郎氏をモデルにした作品である。物語を通し、一日を一生のように悔いなく過ごす「一日一生」という考え方が伝えられていた。
兵庫県尼崎市出身で幼いころから阪神ファンだった石田は、実在した主人公の心に感化されて己を奮い立たせる。
「もしかしたら明日死んでしまうかもしれないなか、一日を全力で。後先を考えるより、いまを一生懸命に生きよう。そのパフォーマンスを評価してもらえるのなら、試合に出よう…と」
15人制日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチからは、じっくり怪我を治すよう勧められているようだ。もともとジョーンズの強いリーダーシップに敬意を表するだけに、シーズン終了後には改めて治療に専念する時期を作るかもしれない。
しかし今週は戦う。ダイナボアーズ戦を前にプレーオフ進出を逃したクラブのレギュラーシーズン最終節が、9日に静岡・ヤマハスタジアムであるからだ。静岡ブルーレヴズと対峙する次の80分で、今季最大の仕事をするのがいまの目標だ。
