指揮官に呼び出されてよかった。
東芝ブレイブルーパス東京の入部5季目で27歳の小鍜治悠太がトッド・ブラックアダーヘッドコーチに「1対1で話そうか」と告げられたのは1月中旬。目下2連覇中のジャパンラグビーリーグワンの新シーズンで5試合を消化した折だ。
直感した。
「お、悩んでるの、ばれたか」
身長176センチ、体重109キロのサイズでハードな衝突を持ち味とする右PRは、折しも、モデルチェンジの必要性を感じていた。日本代表の予備軍であるJAPAN XVに呼ばれたり、海外ルーツの骨格の大きな後輩たちと対峙したりするうち、ハンドリングやコンタクトのスキルを磨くのを意識するようになった。
ここに待ったをかけたのが、「トディ」だった。
「お前が変わっていっているのも、スキルを頑張ろうと思っていてそこが伸びているのもわかる。ただ、お前の接点(ぶつかり合い)に期待しているから」
小鍜治は振り返る。
「そこから、自分の考えがまとまって。その時に伸ばそうと思ったスキルや仕事量はもちろん伸ばし続けるけど、その前に自分のやらなあかんことは接点だと」
技を軽視しろと言われたわけではない。周りの状況が変わってきたからといって、もともとの自分のよさを見失うのはもったいないと諭された。
2020年度の天理大でチーム初の大学日本一に輝いたハードファイターは、安堵したように後述する。
「自分が『こうなったら引退しよう』と思っていたところへ行きそうになり、トディの助言のおかげで(踏みとどまった)」
この時はブラックアダーのおかげで立ち直ったが、今後は自ら己の変化に気づき、必要に応じて立ち返るべき原点に立ち返らなくてはならないとも誓った。そう決意した矢先、さらに険しい山にもぶち当たった。
3月23日、同僚のヴェア・タモエフォラウが「一身上の都合」で退団を発表した。自分と同じポジションの3学年後輩で、開幕から先発機会の多かった24歳の離脱に小鍜治はこう触れた。
「ひとりの『家族』がいなくなる。めちゃくちゃ寂しかったです。(タモエフォラウは)結構、一緒に飲みに行って、慕ってくれて、僕も信頼していたので。いまは、自分の強みを出してあいつの分まで頑張ることを意識しています」
心情を明かすなか、オン・ザ・フィールドでのライバル関係をオフ・ザ・フィールドでの友情に変えていた様子も伝えた。当然といった調子だ。
「皆、そうしますよ。東芝なら」
それを前後し、チームは7連敗を喫していた。
「前に出られない状況が続いていた。FW(PRを含むポジション群)は自分たちが前に出ないと、(ランとパスを駆使する)BKの助けにならない。逆に自分たちが前に出たらBKが助けてくれる。そこは、(調子が)悪い時も意識しました」
もっともその間も、12チーム中6位とプレーオフ圏内には残って第14節からは2連勝。4月18日に神奈川・相模原ギオンスタジアムであった第15節では、スターターの小鍛治が前半25分のフィニッシュ、同33分のトライアシストで爪痕を残す。
後者のシーンでは、敵陣ゴール前でパスコースへ鋭く駆け込みながら、その真横へ小さく球をさばいた。LOのマイケル・ストーバーグを走らせた。
「マイキーのとてつもなくでかい声が聞こえたので、そこしかない、と。(その周辺が)空いているのもわかっていたので」
対する三菱重工相模原ダイナボアーズを45-26で倒したが、その間に満足できたのはうまさのほか激しさでも手応えがあったからだ。チームは不振から脱却すべく、伝統的な部是であるコリジョンバトルの重要性を見つめ直していた。その雰囲気が嬉しいと、小鍛治は言いたげだ。
「東芝らしさを体現しきれて、ひとつずつ勝てるようになっていっている。(最近は)連敗した時よりも(たくさん身体をぶつけるため)しんどい試合をしていますが、それは気持ちいいしんどさです。これやな、という実感があります」
25日には東京・秩父宮ラグビー場で、横浜キヤノンイーグルスを迎える。自分らしさ、自分たちらしさにより欲しいものを掴む。
