高校時代の恩師の素晴らしさを世に知らしめる。その思いがあり、田口惺大はラグビーを続けている。名は「せいだい」と読む。
田口は石川にある金沢学院大の3年生だ。178センチ、102キロのHO。出身高校は浮羽究真館である。福岡にある県立校だ。
ラグビー部監督で保健・体育教員の吉瀬晋太郎は3月末で職を辞した。不惑でうきは市の市会議員選挙に打って出る。この高校があり、育った街の繁栄に直接乗り出す。
吉瀬から言われたことがある。
「せいだい、名を馳せてくれ」
田口自身が世に出て、認知される存在になる。それは同時に師としての勲章にもなる。3年間の教育の成果を可視化できるからだ。
忘れられない思い出がある。高2の5月、右ひじを脱臼骨折した。大ケガに医師からは退部を勧告された。吉瀬は尋ねた。
「すぐ、諦めるんか? チャンスはある。待っとけ」
その秋、吉瀬は田口をメンバーに入れた。教え子を見捨てなかった。
田口は話す。
「吉瀬先生のようになりたいです。いっぱい学ばせてもらいました」
一筆で書かれたような細い眼にはアニメのキャラクターのように「いい人」感が漂う。
田口は吉瀬と同じ保健・体育の教員免許が取れるスポーツ科学部に在籍する。九州から北陸の金沢学院大に飛んだ理由を明かす。
「野村さんが熱心に勧誘してくれました」
野村倫成(みちなり)。45歳。監督であり、修士号を持つ大学職員でもある。
田口は進学において第一志望があった。そこから色よい返事はもらえなかった。事情を分かった上で野村はアプローチをかけた。吉瀬とその教え子への評価はゆるぎない。
吉瀬はもちろん、拾ってくれた野村のためにも名を馳せたい。田口は力を込める。
「リーグワンに挑戦したいです。高校の時は高いレベルは無理だと思っていました」
勝手に線を引くも、高校の同期だった立石飛鳥や手嶋風碧(ふあ)に触発される。立石は天理大のPR、手嶋は流経大のFBだ。
田口は心境の変化に合わせて、お手本にするHOも具体的になってきた。
「佐藤健次さんです。性格もいい、って聞いています」
埼玉WK所属の佐藤は3学年上である。日本代表キャップは8を持つ。
田口の属する金沢学院大は東海学生のAリーグに属する。大学選手権に出場した朝日大や中京大には及ばないが、直近3年は3位を堅持する。この年末年始は76回全国地区対抗に初出場した。地区対抗は大学選手権の下に位置するセカンドの全国大会である。
金沢学院大は4強戦で優勝する山梨学院大に10-48で敗れたが、HOで先発した田口は2試合連続でトライを決めた。初戦は東北大を47-7と降している。田口はスコアへの道筋を五感で感じ取れる。
金沢学院大で試合に出続け、さらに上のステージにゆくための個人練習も怠りない。
「時間があれば筋トレをしています」
ウエイトができるトレーニングセンターにこもる。最高はベンチプレス150キロ、スクワットは240キロを記録している。
田口はこの夏までに達成すべき、すべてのトレーニング数値をすでに上回っている。それはまた努力のたまものだ。持久力を測定するブロンコは5分15秒。大学生のフロントローとしては上々のタイムである。
北島孟(たけし)は例を挙げる。
「ボーデン・バレットは4分30秒と言われています」
バレットはSO。過去、東京SGとトヨタVに在籍した。ニュージーランド代表キャップは144を誇る。北島は金沢学院大のストレングスコーチである。31歳だ。
北島は同志社大の大学院で修士号を取り、田口の在籍するスポーツ科学部の助教になった。専門はトレーニング科学だ。
「彼は授業ですら、競技力向上につなげられないか、と探る姿勢があります」
その向上心を高く評価している。
そのラグビーを田口が始めたのは小3。福岡のブランビーヤングラガーズである。
「最初はイヤイヤでした。2か月くらいして、トライを獲れて楽しくなりました」
父の知人の導きでチームに入った。
浮羽究真館への進学は、吉瀬やチームの広報宣伝的な担当をしていた佐々木隆太郎の熱に引かれた。3年間、5時前に起きて、筑紫野市の自宅を出る。JRを乗り継ぎ、7時からうきは市の学校で始まる朝練習に通った。
県大会の最高は8強だったが、その練習や試合を通して人間的な成長がある。
「両親には感謝しかありません」
母は先に起きて、弁当や捕食を作り、夜遅く帰宅しても、温かい料理を出してくれた。父は最寄り駅まで車で送迎をしてくれた。
今は大学近くのアパートに暮らすため、両親の直接的なサポートのありがたみが余計にわかる。その金沢での生活は悪くない。
「寒いけど、住みやすいです」
日本海の海鮮に目を開かれる。
「特にのどぐろはここで初めて食べました。脂が乗っていて、美味しいです」
のどぐろの正式名称はアカムツである。
その金沢での生活は4月で3年目。ラグビーにおける今年の個人的な目標を挙げる。
「東海リーグのベストフィフティーンです」
選ばれれば、最終的な目標であるリーグワンは視界に見えてくる。
金沢学院大のOBとしてリーグワンに在籍するのはひとりだけ。ディビジョン3(三部)のLR福岡に所属するPRの野田麟太郎である。田口より5学年上だ。
田口は野田に続きたい。ラグビーが上達すれば、チームの最終目標である「大学選手権出場」を引き寄せることになる。北陸の大学として初の快挙を実現させるためにも、まず東海を制せねばならない。
それらはすべて吉瀬への恩返しにもなる。
