強くて速くてうまい。相手にとって止めづらい選手のひとりだ。
静岡ブルーレヴズに加入1季目のセミ・ラドラドラは、身長190センチ、体重110キロのサイズで防御の壁を破る。複数のタックラーに捕まった際も、巧みにオフロードパスを繰り出す。一見すると倒されそうだったり、バランスを崩していたりしそうな時も、身体の軸を保って球をさばいているように映る。
この魅惑的な働きを自己分析すれば、「多分、ナチュラルに出ているものです。あまり考え過ぎていないので」。アドリブの向きが強いのなら、他者が動きを読みにくいのは当然だ。
人とぶつかった瞬間、味方に回すか、いったんその場に転倒するかの判断についても、「倒れる瞬間に(パスすると)決めることもある。その時、相手は私が倒れるだろうと思っているので」とのことだ。
この人からバトンを受け継ぎ、前進することの多いNO8のリッチモンド・トンガタマはこう証言する。
「セミから『ここ』と言われたところ駆け込めば、『ここ』へボールが来る。たまに『遠すぎるだろう、こんなところにパスなんか出せないだろう』といったところを指定された時も、ちゃんと、来るんです。彼を信じて走るだけです」
チームは3勝4敗で12チーム中6位。2シーズン連続のプレーオフ行きへトライアルアンドエラーを重ねる。2月14日には本拠地のヤマハスタジアムで、第8節ここまで1敗で2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとぶつかる。
就任3年目の藤井雄一郎監督は、ここまで5度先発のラドラドラをリザーブに配した。
大型FWを擁するうえに防御の堅いスピアーズに勝つには、リーグきっての危険な走者を切り札にするのが吉だとした。互いの疲労度が高まったタイミングで、特大級の衝撃を与える算段だ。長丁場のシーズンにおいて、主力のコンディションを管理する意図もある。
従来と違う仕事を課された33歳は、静かに意気込む。
「インパクトプレーヤーになる。エナジーを出す」
2種類のラグビーで母国のフィジー代表に選ばれてきた。15人制では2019、23年のワールドカップに出て、7人制では21年のオリンピック東京大会で金メダルを取った。
故郷では、大きな盛り上がりに包まれた。
「光栄でした」
プロ選手としてはフランス、イングランドの計4つのクラブでプレーしてきた。特にブリストルでは、現ブルーレヴズのチャールズ・ピウタウと同僚だった。
故郷よりも寒さの厳しい国で揉まれるなか、学んできたのは「身体のケア」の重要性だ。
「常に、リカバリーを意識しています。それによって、フィールドでしっかり働けます」
まずはよい睡眠を求める。「8時間以上」はマストだ。欧米でデフォルトとなっているベッドは「腰痛が出るから」と使わず、床にマットレスを敷いて寝た。できる限り、生まれ育った国と似た様式で過ごそうとした。
来日後はさらなる援軍を手にした。布団だ。
日本でワールドカップのあった‘19年にその存在を知り、床でゆったりと眠りにつけるのがよいと実感した。このほど新天地に訪れると、ヤマハスタジアムの近くのホームセンターで買い揃えた。
「大好きです」
食も楽しむ。多くのフィジアンと同じく魚好きで、刺身を愛する。新天地における己の整え方を構築しつつあるうえ、「自分をどう維持するかについてなどの経験を、若い選手に伝えたい」。グラウンド内外で周りの力を引き出す。
