日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
30回目となる今回は、好調な集客のわけやW杯再招致に向けてリーグワンがやるべきことをもらった(1月23日)。
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――今季ここまで集客は好調です。
ホスト開幕戦(第2節)は1週間前から大雨予報で、当日もやはり強い雨が降っていたのですが、それでも1万1000人を超える方々に来ていただきました。
ファンの方は雨の中での観戦となってしまいましたが、選手たちは驚いたと思いますし、運営サイドにとっても大きな自信になりました。
昨シーズンも同じ開幕戦で雨が降り、約1万2000の着券数予想だったのですが8500人まで落ち込みました。それを踏まえても、今シーズンのホスト開幕での1万1295人は踏ん張れたと思います。
第3節も「年末のホスト2連戦」ということもあって集客は苦戦すると思っていたのですが、9596人でした。
第5節は1月17日にあり、シーズンを通して一番集客が難しい時期でしたが、ここでも目標としていた7000人を超えて7513人集めることができました。
――チケットマーケティングを担う部隊の奮闘があった。
以前もお話ししましたが、これまで獲得した3、4万人のIDに対して、細かいアプローチができています。
来場者が昨季どのくらい来たのか、招待の後に来ているのかなど、それぞれの状況を調べながら、試合に行きませんか、お得なチケットがありますよと対象ごとにメッセージを送っています。
今シーズンから法人向けチケットの営業担当者を置いたことも、集客増に繋がったと思います。実際に法人チケットは2倍近く伸びています。
これまではスポンサー営業の担当者が、スポンサーになることが難しい場合にチケットの購入を勧めていました。
ただ、それだとアプローチしきれない方もいます。例えば士業といわれる弁護士や税理士、そして開業医の方など、主に個人や小さい法人で事業を営まれている方々ですね。
スポンサーになるまでの金額は出せないけど、パックでチケットを買っていただけるような方は多くいます。そうした方々を専門とした営業担当を置いて、細かくアプローチすることができました。
今季からプレーオフの準々決勝は3、4位のホスト開催になりました。なので、チームが勝ち星を重ねてくれることを信じて、もし準々決勝がホスト開催となった際には今シーズンの集客の集大成にしたいです。
――山谷社長目線で面白い施策はありましたか。
昨季までは試合の企画ミーティングに出たり、細かいところまでチェックしていたのですが、今季は試合の日のイベントは完全に任せています。
全国各地のからあげを食べられる「からあげ祭り」を実施したり、マッチョな集団やお笑い芸人を呼んだりと、若手中心に考えた試合ごとの企画はファンの方々に刺さっていると感じます。
これも先ほどのチケット営業のように、組織の役割を細分化したことが功を奏していると思います。
もともとはファンマーケティングで一つの部署だったのですが、今季からファンクラブなどを含むマーケティングチームと、試合企画とチケット営業を行うチームに分けました。その分、各自が自分の役割を高い質で実行できるようになったと思います。
ただ、縦割りで役割を分けてしまうと今度は横の繋がりが希薄になりがちです。そのために部門を横断したプロジェクトも同時に走らせました。
開幕前に制作したアンセムも、試合運営の担当だけでなく、さまざまな部署のメンバーによるプロジェクトチームみんなで考えたものです。
全員で歌詞を持ち寄ったり、どういう楽曲がいいかを考えて、みんなで歌って収録もしました。
楽曲はヨドバシカメラのCMソングにも使われているので笑われることもあるのですが、リパブリック讃歌という歴史あるアメリカの曲です。みんな聴いたことがあるので、すぐに歌えます。
選手入場の直前にみんなで立ち上がって歌うのですが、徐々に浸透してきていると感じます。プレーオフでは大合唱したいですね。
――客層にも変化が出てきているそうですね。
データがあるわけではないのですが、一般的なラグビーの客層は男性7~8割、女性2~3割と言われているそうで、年齢層は比較的高いのではないかと思います。
ただブルーレヴズでは、昨季くらいからファンクラブ会員を分析すると男性6割、女性4割となっていて、年齢層は10代から20代と30代から40代とで5割を占めています。ファミリー層や女性、子どもが確実に増えていて、それはホストゲームの客層をみてもそう感じます。
――話題は変わりますが、12月にはグリーンロケッツ東葛の譲渡先がJR東日本に決まりました。
まずはチームが消滅せずに存続できたということは、ラグビー界としてはとても望ましいことであり、JR東日本さんに本当に敬意を表するべきだと思います。
あらためてラグビーには価値があると証明されたと思います。
一方で、ラグビーを発展させていくことと、チームを存続させることは別の話です。
これからJR東日本さんがラグビーをどう活用していくかは注目していく必要があると思います。
企業スポーツの良し悪しを言っているのではなく、その競技の底辺を支えたり、競技を続けたい人に機会を提供するためには企業スポーツは必要不可欠な仕組みです。
ただ、これから発展していくためには予算消化型の企業スポーツでは難しく、チームが営利法人となり、自ら稼ぎ、拡大再生産を目指して活動していくことが必要です。これは僕の持論ではなく、一般的にみた原理原則です。
実際にバレーボールはVリーグとSVリーグの運営主体を分けました。
SVリーグはさらなる発展を目指して協会から独立させプロリーグとして法人化したチームのみで構成し、Vリーグはバレーボール協会が運営する形で企業チームも含みながら普及を目的としたリーグにするそうです。
――1月には日本ラグビー協会が2035年にW杯を再招致すると決めました。
先ほどの話に繋がりますが、仮に招致が叶ったとしても、それまでに(分社化したチームで構成される)プロリーグがあるかないかでその後のラグビーの発展は大きく変わります。
サッカーは1993年にJリーグができた後、2002年にW杯が日本で開催されたことで国内に定着しました。
バスケも2016年にBリーグができ、その後の2023年に沖縄でW杯がおこなわれて、あれだけの盛り上がりを見せました。
ただ、バスケは2006年に世界選手権、バレーボールは過去2回世界選手権が日本で開催されましたが、まだバスケもバレーも当時はアマチュアリーグしかなかったためにいずれも日常化せず、打ち上げ花火で終わっています。
ラグビーも2019年のW杯日本大会は大成功でしたが、その後ラグビーが日常化しているとは言えません。
過去の他競技の事例を踏まえても、W杯を呼べば人気や普及はなんとかなるという議論は絶対にやめるべきです。
もう一度、W杯を日本に招致してラグビーを普及、発展させるためには、その前に完全なプロリーグを整備して、日常や各地にラグビーというコンテンツが流通するような仕組みができていなければ、前回大会や他競技の過去大会と同じように打ち上げ花火で終わってしまいます。
ただ幸いなことに、リーグワンの中でもようやく中長期の議論をすべきだと発言してくれる人が僕以外にも増えてきました。
最近、アンダー50(50歳以下)の実行委員の皆さんで今後の日本のラグビーやリーグのあるべき姿を考えた方がいいのでは、とも思っています。
僕はもう55歳ですし、2035年や2039年にこの仕事をしているか分かりません。今いる実行委員会のメンバーも半分以上はいないでしょう。
そうであれば、今後10年のラグビーを支えていく若い人たちが自分ゴトとして考え、判断した方がいいのではないかと。
ラグビーは競技人口、人気も含めて危機的な状況と捉えるべきです。
次回のW杯日本大会に間に合うように2030年代初頭にプロリーグを作るのであれば、今から議論を始めないと手遅れになる。残された時間は多くありません。
PROFILE
やまや・たかし。1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
