ラグビーリパブリック

【コラム】コーチはつらくて、やめられない。

2026.01.22

オールブラックスの任を解かれたスコット・ロバートソン氏。51歳(Photo/Getty Images)

 新年15日。オールブラックスのヘッドコーチ(HC)、スコット・ロバートソンが解任された。ニュージーランドでは首相の進退よりも大きなニュースである可能性を否定できない。

 当人の失意は容易に想像がつく。さらに次期候補にさっそく名の挙がる名士たち、それこそ前ジャパンHCのジェイミー・ジョセフ、同志であるトニー・ブラウンは筆頭格だが、誰であれ、突然の事態に胸中はさぞやゾワゾワザワザワしているだろう。

 日本のスポーツライターには、ラグビー国のジャーナリズムが「次は誰がふさわしいのか」を盛んに報じるのはありがたい。

 そこには往年の名手や現役選手による「見解」や「評価」が含まれる。コーチングについての思考の展開に役立つのである。こちらが漠然と考えている内容を具体的な言葉で示してくれる。

 あった。ありました。オールブラックスで109キャップのロック、ブロディ・レタリックが、いま仕えるボス、コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニーHCの資質を母国のポッドキャスト(Sport Nation‘s Millsy and Guy)に語っている。各メディアの引用を紹介する。

 あらためて愛称レンズ、62歳のデイブ・レニーは、かつてスーパーラグビーのチーフスを率いて優勝、オーストラリア代表ワラビーズのHCも務めた。今回の有力候補だ。
 レタリックは述べる。

「レンズにはいくつかの姿がある。まずコミュニティーとの結びつきを築いて、チームのカルチャーを創り、サポーターや地域との関係を見出す。そのことは選手の主体性を育むのに大いに役立つ」

 いちばん初めに戦術構築や技術の仕込みではなく「共同体への参画」に触れている。

「彼は長くコーチングをしてきたので、いかにラグビーの試合を進めるべきか、そのための細部をゲームプランへまとめていくことについても熟知している」

 さらに。「よいコーチならそうであるように他者(ひと)とうまく交わり、気持ちをくみとることができる。親しみを感じさせ、笑い合える。同時に、考え方や行動が間違っているなら、そう告げる」

 やはり候補のひとりとされる現ワラビーズHCのジョー・シュミットと「似ていて」ともに準備の鬼である。万事に「やり残すことはない」。ここのところ英語の表現を直訳すれば「引っくり返さぬ石はなし(leave no stone unturned)」。

 整理したい。
 よきコーチは、よきラグビーをするためにラグビーだけをしない。このクラブはどこからきて、どこにあって、そこに加わるあなたとは何者なのか。練習をただの練習とはせず、文化におおわれた環境としてしまう。

 よきコーチは共感を呼ぶ。選手でもスタッフでも、人間をなるだけ知ろうとするし、自然に知ってしまう。本コラム筆者の高校や大学のコーチ経験でも、他者に関心のある指導者は、目の前に立つ部員が「何を言われるとうれしくて、何を言われるのが嫌いなのか」をつかめる。すると根源においては優しく、必要ならば厳しくなれる。

 よきコーチは自分の幼子を風呂に入れない。ま、これはたとえ。家族の時間があれば対戦相手の映像を見たい。ハンバーグの皿の付け合わせの温野菜をフォークで動かしてディフェンスの立ち位置を決めたりする。ちっぽけな石も念のため引っくり返しておく。

 任を解かれたスコット・ロバートソンの代表成績は20勝7敗、他国なら悪くもないだろう。王国の評価は甘くない。ちなみに2017年2月から23年6月までクルセイダーズを率いて、こちらはスーパーラグビー7連覇、成績は98勝2分17敗、勝率84%に達した。

 デイブ・レニーの実質3年のワラビーズでの勝率は38%と低迷、結果、ワールドカップ開催の2023年の1月に職を追われた。後任は、いまジャパンのエディー・ジョーンズである。本大会ではプール敗退に終わった。
 レニー体制はコロナ禍の影響を強く受け、シリーズの負傷に悩まされた。よく確かめれば、2022年11月に敵地でフランスに29-30、アイルランドには10-13の記録が見つかる。当時の両代表はいずれもに最強のひとつとされた。あのまま仕事を続けられたら、案外、よかったのでは。との声はくすぶる。おかげで実績を積んだ元教員にして酒場経営の男は神戸に現れた。

 それもこれも「コーチはつらいよ」である。勝利は選手のもの。敗北は監督のせい。なのに自分の愛するラグビーを志す後進を愛し、一緒に戦ったら、もう他の世界では満足できない。

 あれはいつだったか。東京の早稲田大学高等学院監督として花園出場を遂げた人物のつぶやきを聞いた。教員ではなく大手企業に勤めていた。

「会社の後輩が言うんだよ。いいですね、休日に高校生にスポーツを教えるなんて。ストレス解消ですね。違う。違うだろ。ストレスはどんどんたまるんだよ」
 そのときの顔はなんともうれしそうだった。

Exit mobile version