「息子と一緒に花園のグラウンドに立てました。本当に奇跡のように感じます」
第105回全国高校ラグビー大会(花園)で、8大会ぶり16回目の出場を果たした沖縄県立コザ高校。
コーチとして辺土名斉朝監督をサポートした比嘉政之さんは、自身もコザ高の元ラグビー部員。高校1年時には自身も花園出場を経験した。
しかし当時は1年生で、花園のグラウンドに立つことはできなかった。
時を経て、比嘉コーチの息子は母校のスタンドオフとなった。名護高校との花園予選決勝にも先発した3年生SO比嘉政将だ。
その花園予選決勝は、紙一重の決着だった。
コザはSO比嘉政将のPGで3点を先取したが、前半終了間際に名護のCTB伊波海皇が逆転トライ。試合は4点ビハインド(3-7)のまま膠着した。
突破口は後半17分だった。2年生CTB比嘉新希が3対2の数的不利の状況で、パスカットを狙った――そして見事に捕球。そのまま独走して決勝点となる逆転トライを決めた。
「あれは名護に有利な状況でしたが、インターセプトした選手(比嘉新)が相手を迷わせる位置に立ってパスをさせ、インターセプトした形です」(比嘉政之コーチ)
最後は2年生CTB宮城陽吏がタックルでミスを誘い、1点差を守り切った。SH比嘉唯吹主将を始め、マネジャー4名を含めた部員28名で8大会ぶりの切符を掴んだ。
花園出場は決まったが、沖縄からの遠征費には航空券代など多額の費用がかかる。ここからは関係者がハードワークした。チームは「クラウドファンディングをしたり、花園記念出場のタオルやTシャツを販売したりして」(比嘉コーチ)遠征費を工面した。
応援団の思いも背負い、2025年12月27日、8大会ぶりに花園へ戻ってきたコザ高校は大会初日、花園第2グラウンドに立った。対峙した相手は3大会連続(24回目)の経験値がある鹿児島実業だった。
「コザ高校はサイズが小さいので、どうやって鹿児島実業さんの大きいフォワード、スピードのあるバックスを押さえ込むかを考えてきました」(比嘉コーチ)
機先を制したのはコザ。パワーランナーであるPR長嶺拓知を囮として、ショートパスを受けたHO仲松壮助がトライゾーンへ。スピーディーな展開ラグビーを伝統とするコザが先制した。
しかし以降は鹿児島実業が上回った。武器である展開力を生かし4連続トライ。コザもPR長嶺がスクラム姿勢で後半29分にトライエリアをこじ開けたが、無念のノーサイド。14-22で1回戦敗退となった。
比嘉親子の花園挑戦も幕を閉じた。夕闇の迫る花園第1グラウンドのメインゲート前。親子の表情はすっきりしていた。
「(コザ高の)1年の時に花園にきましたが、出場できませんでした。息子にもう一度花園に連れてきてもらった、という気持ちもあります。今日はベンチに入って、親子で花園のグラウンドに立てた。本当に奇跡のように感じます」(比嘉コーチ)
息子は高校卒業後、沖縄を出る。関東の強豪大学でラグビーを続ける予定だ。父は沖縄から画面越しに息子に声援を送るつもりだ。
「テレビを観ながらゆんたく(沖縄の方言で「お話、おしゃべり」の意)します。いなくなるのは寂しくなりますね」(比嘉コーチ)
息子のSO比嘉政将に、初めての花園の感想を尋ねた。その言葉には人びとを魅了してやまない花園の豊かさが凝縮されていた。
「楽しかったです。花園は、何回でも来たくなる場所でした」
