ラグビーリパブリック

ブラジルと石川に思い。東洋大のアルメイダ聖がプロ選手を目指すわけ。

2025.12.10

髪を短くしたアルメイダ聖[東洋大/LO](撮影:長尾亜紀)

 胸が高鳴って当然だ。

 東洋大ラグビー部1年のアルメイダ聖は、11月30日の関東大学リーグ戦1部の最終節に先発。同じLOのポジションで4年の栗原大地が万全でなかったのを受け、代役として今秋の公式戦のおける初陣を飾った。

 戦前まで初優勝の可能性も残して迎えた一戦で、ルーキーが初めてスターターを担う。その現実に身が引き締まった。

「緊張しました。いくら先輩の怪我(が起用理由)でも、このチャンスを絶対にものにしよう。きょうまで練習してきたことを発揮しよう。そう、思いました」

 後半ロスタイムまでプレーした。身長186センチ、体重110キロの堂々たる体格でタックル、モールで奮闘。前年度王者の大東大を34-12で下してリーグ戦を準優勝で終えると、もう次を見据えていた。

 試合直後に取材を受けていると、ちょうど視線の先に最上級生でFLの森山海宇オスティンがいるのに気づいた。

「この4年間でもっとフィジカルを強くして、オスティンさんみたいなビッグタックルのできる選手になりたいです」

 名前はきよし、と読む。ブラジルから仕事を求めて来日したジジェルさんが、愛知で作った家庭で生まれ育った。

 双子の光(ひかる)さんは、すでに社会へ出ている。埼玉の大学の寮に住む聖は、スポーツで人生を作るつもりだ。

 楕円球とは中学で出会った。当時から身体が大きかったため、周りに勧められて始めた。

 ただ、もともとはサッカー少年だ。世界有数の蹴球大国がルーツの父は、競技転向に難色を示していたよう。息子は父に、ラグビー選手が大怪我をする動画を何度も見せられた。

「こうなりたいのか、お前は?って」

 時間が経てば、熱心に応援されるようになった。家族に支えのもと進歩し、スポーツ推薦で日本航空石川高、いまの東洋大の門を叩くこととなり、行く先々で学費や寮費の支払いを考慮してもらっている。その、意味をかみしめる。

「本当は大学に行く予定はなくて、働こうと思っていたのですけど。周りのおかげで成長できている。自分のひとりの力ではなく、お父さん、お母さん、高校、大学の監督のおかげでいまがあります」

 高校2年時に能登半島沖地震を経験した。寮は壊れ、地面から浮き上がった体育館が避難者の拠点になった。全国大会の常連だったラグビー部は、アルメイダ曰く「僕がもともといた中学校や、愛知にある大学で練習させてもらいました」。さらには…。

「校外学習で朝市へ行ったのですが、そこも火事で更地になって…。通っている学校が被災するなんて…。本当にショックでした」

 ここで芽生えたのは、アスリートとしての大義だった。

「(今後は)プロを目指すのが第一です。また、被災地の皆に恩返しがしたい。お世話になった人に見てもらえるところでプレーしたいです」

 チームは12月14日、秩父宮で大学選手権3回戦に挑む。4連覇中の帝京大へ挑む。他者があって自分があるとわかる青年は、この大一番でジャージーを着られるだろうか。

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