グラウンドに30人が同時に立つラグビーにおいて、一人の活躍が勝敗までを変えることは難しい。
ただ今季の近大にあって、この人の欠場は痛かった。
西柊太郎。世代随一のインサイドCTBだ。
東福岡では3年時にチームを花園優勝に導く原動力となり、高校日本代表ではSOの伊藤龍之介(明大3年)とともにアタックを自在に操った。
近大の神本健司監督は、「チームのモメンタムを生むことに秀でています。前がすごく見えている選手」と評する。
抜群のスペース感覚は、ワイドな攻撃を展開する東福岡で磨かれた。
2年時からアウトサイドCTBのレギュラーを勝ち取り、試合を重ねながら学んだという。
「10番に幹志朗さん(楢本/筑波大)、12番に翔太さん(平/明大)がいて、すごい先輩たちから吸収できました」
ただ、大学では順風満帆とはいかなかった。ルーキーイヤーは、関西リーグでの出場は5試合の途中出場にとどまる。プレータイムも合計52分と短かった。
課題は明確にフィジカルだった。入学当初の体重は70キロと軽かった(173センチ)。
「Aチームの試合に少し出させてもらって、ジュニアの試合とはレベルが違うと痛感しました。やらないといけないと」
さらに成長を加速させる出来事もあった。12月にU20日本代表の選考から漏れたのだ。
「火がつきました」
チーム全体でおこなうウエートの前に、さらにウエートの時間を設けた。
同じウィークポイントを抱えた同期のWTB岸未来、SH渡邊晴斗を連れた。
「いまも続けていますが、授業の関係で最近はウエートの後に自主ウエートをしています。人数も3人だけでなく結構増えてきました」
食事は1日最低でも4回設け、多い日は5〜6回まで増やした。プロテインを欠かさず飲み、寮では炒飯を作った。
果たして、10キロの増量に成功。2年時は春からレギュラーを掴んだ。
秋のシーズン2戦目(関西大戦)で肘を脱臼するも、最終節の関西学院大戦で復帰できた(先発WTB)。
初出場の大学選手権では10番を背負った。
「10番を経験させてもらって、12番としてもレベルアップできました。ゲームコントロールを身につけられたし、10番を気遣うこともできるようになりました」
この春には突き刺さるタックルでも魅せていた。もともと身体を当てることに抵抗はないという。
「フィジカルがついてきたことが、良いタックルに繋がっています」
上回生(3年生)となり、「後輩から尊敬される存在」を心がける。
前主将の中村志(現JR西日本)やCTBでコンビを組んだ藤岡竜也(現江東BS)のように、ストイックでありたい。
ただ、今季もケガに泣いた。夏合宿で顎を負傷。11月2日の京産大戦で、ようやく復帰が叶った(背番号22)。
昨季の下位チームとの4戦を2勝2敗で折り返し、選手権行きに黄色信号が灯るチームの窮地を救いたい。
