ある時は南アフリカの国旗が描かれたヘッドキャップを。
ある時は筑紫高校のキャップを。
そして、10月12日の摂南大戦では京都成章高校のキャップを被っていた。
関西学院大の4年生、中俊一朗(なか・しゅんいちろう)に聞けば、それは同期の山本皓三郎のものだという。
照れからだろう。毎試合変えているわけを、少々濁して答える。
「気分っすね。出てへん同期の高校とかのを(借りている)。その方が気持ちが乗るというか、遊び心というか…そんな感じです。もちろん、ちゃんと洗って返します(笑)」
つまりはノンメンバーの思いも背負っている。「遊び心」というのも本心なのだろう。
思えばこの背番号13、試合中も時折、白い歯を見せるのだ。
「あまり硬くなり過ぎんように意識してます。そういう時の方が違う発想ができて、良いプレーに繋がることが多いので」
高校時代の実績を踏まえれば、ようやく出番が回ってきたと書いても差し支えないだろう。
中俊一朗はそれだけ輝いていた。4シーズン前の冬、高い突破力と堅いディフェンスで魅せた。
東海大大阪仰星を花園優勝に導く原動力となった。
「(インサイドCTBの)健吾が上手かったんで、自分は生かされてました」
あくまで現・早大主将を称える。野中に「任せていた」ことも、4年生となったいまはそれを担う側になった。
「BKリーダーになったので。ラグビーを考える機会がこの1年はすごく多くなりました」
元コベルコ神戸スティーラーズのWTBで、現在は父が興した家業(リサイクル事業)を継ぐ6学年上の兄・孝祐さんと同じ関西学院大に通った過去3年間は、紆余曲折あった。
1年時から先発機会を得て関西リーグの全試合に出場するも、本職でないWTBやFBでの出場だった。
リザーブに回る日も少なくなかった。
父を亡くしたり、自身が病を患ったことも重なり、3年目のシーズンを前後して1か月ほど部を離れたこともあった。
「(CTBに)良い選手がいっぱいおって、出られなかったのもあるけど、リザーブやった時になんでやねんとなる時期がありました。自分じゃない方にベクトルが向いていたのが良くなかった。でも、この1年は自分のことにしっかりフォーカスできています」
春に5キロほどの増量に成功。高水準のパフォーマンスを維持できた。
満を持してアウトサイドCTBを任されたことも、追い風になった。
「感覚的にはCTBが一番合っています。自分は観客が湧くようなプレーはできないけど、オフ・ザ・ボールの動きだったり、良いプレーに繋がる前のブレイクダウンやキャリーには自信があります。そういう細かい、小さなことにこだわってきました」
関西リーグは第3節を終えた。関西学院大は昨季の下位チームに3戦全勝。3位をキープしている。
昨季は最終節で選手権行きを逃したから、「一つひとつの勝負にほんまに集中して取り組みたい」と話す。
「去年の4回生は強くて、僕らの代はそんなに、という感じで言われてきました。でも、僕は良い選手もいっぱいいると思っていたから悔しかったんです。勝って見返したい」
10月26日には、前節で近大を破って勢いに乗る関西大とぶつかる。伝統の関関戦だ。
次は誰からヘッドキャップを借りますか?
「それはシークレットでお願いします」
週末のお楽しみである。
