ラグビーリパブリック

【コラム】才気の発露。

2025.10.23

オーストラリアA代表戦で何度も快走を披露したFB矢崎由高(撮影:松村真行)

 競争心の強さはスポーツで成功を収める上での絶対条件だ。目の前の相手に必ず勝つという強い意志が、紙一重のせめぎ合いで一歩前に出るエナジーになる。闘争の場であっさりヒザを折る者に栄冠は訪れない。

 10月18日、大阪はヨドコウ桜スタジアム。JAPAN XV対オーストラリアA代表の一戦で特大の負けん気を目撃した。15番を背負った矢崎由高の活力あふれる走りは、7-71という目を覆いたくなるような惨敗にあって数少ない希望の光だった。

 開始8分49秒、防御裏へのSO中楠一期のグラバーキックを目の覚めるような加速で追いかけ、あわやトライというシーンを作り出す。21分過ぎにはここしかないというタイミングでのライン参加から鋭くタテにブレイク。そのまま2023年のW杯でワラビーズの主戦を務めたSOベン・ドナルドソンとの1対1を抜き去って、トライをもぎ取った。

 この日JAPAN XVの先発15人の中で最年少、21歳の大学3年生は、その後も天性のフットワークと伸びやかなランでたびたび観客席を沸かせた。

 一方的にスコアが開いていく中でも意欲的にボールに絡み、ひるむことなく勝負を挑む。このまま終わってたまるかという意地が、プレーのいたる局面から立ち上った。足よりも先に気持ちが止まってしまったチームにあって、そのパフォーマンスは文字通り際立っていた。

 国際試合は昨年10月26日のオールブラックスとのテストマッチ以来、ほぼ1年ぶり。そのブランクをまるで感じさせることなくあらためてインターナショナル級の潜在力を証明したフィニッシャーは、ゲーム後のコメントにも切れ味があった。

 ぐるりと周囲を覆う記者陣から、大学生相手の試合とのギャップを聞かれて。

「どのカテゴリーの試合でも、フォーカスするのは自分。相手の強さは関係なく、その試合で自分に求められることは何かを考えて、それやるのが僕のスタイルなので。しっかりボールタッチして、ハードワークしてというのが、日本代表のBKとして求められるものだと思う。今日はそこが足りなかった」

 結果的にJAPAN XV唯一のトライとなった自身のトライについては、こう感想を口にした。

「トライを取れたことは本当によかったし、自信につなげていいと思います。でもあれで日本代表がやりたいことを表現できたかといえば、正直ハテナが残る」

 ゲームキャプテンを務めたFL奥井章仁は、試合中のハドルにおいてCTB廣瀬雄也やSO小村真也とともに矢崎が積極的に発言し、チームをいい方向へ進めようとしていたことを記者会見で明かした。そのことを尋ねると、以下の答えが返ってきた。

「話した内容はよく覚えてないです。でもたぶん、その時々で自分たちがやらなきゃいけないことを僕は伝えたかったので、それを伝えてたんだと思います」

 そして続けた。

「一番感じたのは、もっと僕たちはハードワークしなきゃいけなかったということ。全面で勝負しようということをテーマに掲げていたのだから、そこをもっとプライドを持ってやるべきだった」

 もちろんこの日フィールドに立った選手は、誰もが同じことを感じていたはずだ。80分間にわたって攻守に黙々と体を張り続けたFLタイラー・ポールやCTB廣瀬雄也らの奮闘も忘れてはならない。ラグビーは絶対にひとりではできない。いたずらに個のプレーヤーを英雄視するのは、フェアではないだろう。

 それでも本コラムで矢崎由高のことを取り上げたのは、持ち前のアタックだけでなく、そのメンタリティの非凡さにも感銘を受けたからだ。

 大敗にあって気を吐く。そこまでならそれなりに目にする。だが11トライを奪われる惨敗で最後までファイティングポーズをとり続け、本気で悔しがれる選手はそうはいない。しかも相手はキャップホルダー9人を含むワラビーズ予備軍である。

 あの脚力はいうまでもなく稀有な才能だ。しかしラグビーフットボーラーとしての矢崎由高の真髄は、このアスリート向きのマインドセットにこそあると感じた。思い返せば大畑大介も小野澤宏時も松島幸太朗もそうだった。

 最後に、囲み取材で久しぶりに代表活動に復帰した心境を聞かれた際の返答を紹介したい。

「たかが去年1年しかやっていないので、日本代表に帰ってきたな、とかは思いません。これからも継続してこの舞台に立てるよう努力し続けたい」

 いいぞ。飛ぶ鳥落とす勢いの若者に、しつらえたようなコメントは似合わない。このままジャパンのエースへの道を、トップスピードで駆け上がってほしい。

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