南アフリカ代表”スプリングボクス”は、この秋も恒例のヨーロッパ遠征に臨む。
そこで5試合を戦う。
その初戦の相手は、日本代表”ブレイブ・ブロッサムズ”だ。
会場はロンドンのウェンブリー・スタジアムである。
来る試合は4度目の対戦で、2015年の”ブライトンの奇跡”からちょうど10年という節目のタイミングでもある。
あの日、日本はワールドカップの初戦で南アフリカを34-32で破り、世界を驚かせた。
この歴史的勝利はいまも「スポーツ史上最大の番狂わせの一つ」として語り継がれ、日本ラグビー史上最高の成果とされている。
その後の2試合は、いずれも南アフリカが勝利を収めた。
1試合目は2019年ワールドカップ前の強化試合で41-7と完勝。そして本大会準々決勝では26-3で破り、そのまま三度目のワールドカップ制覇へと突き進んだ。
スプリングボクスにとって、ロンドンはお馴染みの場所だ。
昨年6月にはトゥイッケナムでウエールズを41-13で破り、その直前にはニュージーランドを35ー7の大差で下し、フランス大会(2023W杯)へ向けて勢いを加速できた。
つい最近も、同じトゥイッケナムでアルゼンチンを破り、ザ・ラグビーチャンピオンシップ連覇を達成。
英国在住の南アフリカ人コミュニティの大声援が、再びチームを勝利へと導いた。
両チームの指揮官は、今回の一戦が「テンポの速いオープンな試合」になると期待している。
それこそ、会場のウェンブリースタジアムは”サッカーの聖地”である。
日本代表のエディー・ジョーンズHCは、2007年大会でジェイク・ホワイトHC率いる南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーとして優勝を経験している。
エディー自身にとっても、この再選には特別な意味があるようだ。
「10年前のブライトンでの試合が、日本ラグビーを”マイナーな競技”から”国民的スポーツ”へと変えたんです。ボクスと戦うことは、日本の若い選手にとって夢のようなことなんです」
一方、南アフリカ代表のラシー・エラスマスHCも、日本ラグビーと日本文化に対して深い敬意と愛情を抱いている。
「彼らは攻撃的でテンポの速いラグビーをする。それは過去二度の対戦でも顕著でした。そして私たちは、2019年に日本の人々がボクスを本当に温かく迎えてくれたことを決して忘れません。あのときのサポートと愛情には心から感謝しています」
ラグビーチャンピオンシップ2連覇を果たした後、短い休養を挟んで臨む今回の遠征。
エラスマスHCがこのツアーで持ち込むものはなんだろうか。
チームはアタックの強化に取り組んでおり、その過程では”成長痛”も見られた。
チャンピオンシップ期間中、週によっては圧倒的な強さを見せる一方、不安定な試合もあった。
フランスやアイルランドと戦う際に、序盤で14点を献上するあの時のような展開を許すわけにはいかない。
セットプレーに関しては依然として圧倒的だ。特にフロントローの強さは際立っている。
トーマス・デュトイ、マルコム・マークス、オックス・ンチェの先発トリオに、ウィルコ・ルーやヤン=ヘンドリック・ウェッセルズらが途中出場で加わる布陣は、対戦相手にとってあまりに強烈で、来月もこの布陣が続く見通しだ。
そして、驚くべきは司令塔争いである。
ハンドレ・ポラードがわずか2年で「スター選手」から「3番手の司令塔」へと立場を変えた。現在はサシャ・ファインバーグ=ムゴメズルとマニー・リボックがポラードの前に立ちはだかっている。
大胆なローテーションを施すエラスマスのおかげで、誰がツアーの大一番で10番を背負うのか、まったく予想できない。
特に若手のサシャには将来の大器としての期待が集まっており、敵地の熱狂的な雰囲気の中でどうプレーするかが注目される。
例年、この秋のツアーでは主力を休ませることもあるが、今年はそうはいかない。
というのも、2027年ワールドカップの組み合わせ抽選(12月3日)に向け、世界ランキングの順位が極めて重要だからだ。
エラスマスはベストメンバーを選び、12月時点で世界1位を維持することで、大会本番でより有利なプール分けを狙っている。
最大の焦点は、もちろんフランスとアイルランド戦だ。
キャプテンのシヤ・コリシも、このツアーをチームの使命と重ねてこう語る。
「ラシーは就任当初から、僕たちの考え方を変えてくれました。”個人ではなく、南アフリカという国のために戦うんだ”と。僕たちは自分たちが”ただの乗り物”だと理解しました。大事なのは、このジャージーを着て何をするかです。僕たちのプレーがすべてを変えるわけではないけれど、このチームが南アフリカに希望を与えているのは確かです」
スプリングボクスの旅は続く。
それは、勝利だけでなく、国の誇りと人々の信念を背負った旅でもあるのだ。