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【ラグリパ×リーグワン共同企画】「いまやるべきことをやる」。新世代のバックスが見せた未来への胎動

2025.10.09

加入3年目の二村莞司(提供:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)



 昨シーズン終了後、フラン・ルディケ ヘッドコーチにインタビューしたときのことだ。シーズン中に爪痕を残した廣瀬雄也、山田響、松下怜央ら新世代バックス陣について話を聞いた際、彼らと並んで「日本人選手としては体格が大きく、速く、素晴らしいスキルを持つ、来シーズンが楽しみなエキサイティングな選手」としてもう一人、名前を挙げた選手がいた。二村莞司である。

 2023年にクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に加入。同期の中でいち早く、同年4月の東芝ブレイブルーパス東京戦でリーグワン初キャップを飾った。だが、そのシーズンの公式戦出場は2試合。翌2024-25シーズンもピッチに入ったのは1試合にとどまっている。

 同期入団のデーヴィッド・ヴァンジーランドはこの10月、日本代表トレーニングスコッド合宿参加メンバーに名を連ねた。二村は「負けたくない。同世代が頑張っているのはすごく刺激になりますし、僕もいまできることを全力でやろうと思っています」とまっすぐな視線でそう語る。

 その「いまできること」とは、果たして何か。ジャパンラグビー リーグワンライジング第2週の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦。二村は軸足を置くセンターではなく、ウイングとしてこの一戦に臨んだ。

「与えられたポジションで『やれ』と言われたら、どのポジションでもやります。これまで(公式戦の)出場機会が少なかったので、この『ライジング』からいいアピールができるよう、1試合1試合大事に挑もうと思っていました」

 その言葉どおり、180cm87kgの大型バックスはボールを手にすると相手にタックルで絡まれても地面に体を預けようとはせず、体幹が耐えうる限り前に突き進んだ。フィニッシャーとしての存在感を発揮したのは後半38分。2点差に迫る猛追を見せた相模原DB。その勢いを振り払うように、トライエリアへと飛び込んだのが二村だった。ここで闘いの潮目は変わり、スピアーズは38対19で快勝。2戦2勝でリーグワンライジングを終えた。

「まだミスやコミュニケーション不足など課題は多いですが、良い部分も悪い部分も含めて成長につながる試合でした。フィジカル面の強化や、しんどい時間帯でのコミュニケーション、ハードワークの部分をもっと高めていきたいと思います」

 勝利を決定づける活躍を見せたにもかかわらず、試合後の二村が口にしたのは冷静な自己分析だった。「いまやるべきことをやる」という現在志向のマインドセットで取り組んでいるからこそ、勝ったその先に、次の課題を見据えている。彼の視線は、まだ遠くを見てはいない。

「将来のことも大事ですが、いまこの瞬間を大切にして取り組んでいます。スペースを見てプレーすることを意識していて、アタックでもディフェンスでも“前を見る”ことを大事にしています。練習から意識してやってきたので、今日の試合では最初こそ緊張しましたが、次第に落ち着いて視野を広く持ってプレーできました」

 こちらの質問が終わると、彼は「すみません、しゃべるのが下手で」と言い残して、選手バスに乗り込んだ。朴訥にして、実直。シンプルな言葉の奥に、静かな情熱が息づいている。

『明日』は突然に訪れるものではない。自らの一歩によって、いまこの瞬間に生まれるものである。だから、「いまやるべきことをやる」。リーグワン開幕まで、あと約2カ月。秋の風がそよぐフィールドで、未来への胎動が確かに聞こえた。

(藤本かずまさ)

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