司令塔としてチームを波に乗せられぬまま、最終局面に突入した。
明大ラグビー部3年の伊藤龍之介が関東大学対抗戦Aの初戦に挑んだのは9月14日。茨城のケーズデンキスタジアム水戸で、対する筑波大の圧力を受けていた。
わずか3点をリードしていた後半ロスタイム43分。レフリーにイエローカードを出された。一時退場を命じられた。自軍のペナルティーで向こうにアドバンテージを与えて攻められるなか、悪い循環を断つべくリスキーな位置から防御を試みたのだ。それが裏目に出た。
「とりあえず(流れを)切ってもらおうかという思いでしたが…。よくなかったです。しっかり(所定の位置で)我慢していたら、(その後)トライを取られなかったかもしれないですし…」
24-28と逆転され、ノーサイドを迎えた。困ったのはその後だ。敗れたチームの殊勲者に贈られるモースト・インプレッシブ・プレーヤーにピックアップされたのだ。自身のペナライズで苦しんだ向きもあったのに、首にメダルをかけられ挨拶したのにはこう苦笑した。
「いつもならいいプレーをしたら選んで欲しいと思いますが、きょうだけは選んでくれるなと…。申し訳ない気持ちで、情けないです」
全てを終え、日が経ってから問われたのは彼我の立ち位置をどう見ていたかについてだ。
向こうは前年度の順位こそ明大より3つ下回る6位に沈んでいたが、23歳以下日本代表の中森真翔ら実力者を擁するうえこの一戦へ焦点を絞っていた。明大が筑波大の実力をどう見積もっていたかも勝負を左右した可能性について、こう言葉を選んだ。
「どこかに緩み、負けはないだろうという気持ちがあったのかなと僕自身も思います。相手ではなく、もっと自分たちにフォーカスしなくちゃいけない。大前提の心構えから見直すきっかけになったと考えたら、無駄ではなかったかなと」
心機一転。27日、東京・秩父宮ラグビー場に昨季5位の青学大とぶつかった。ところが、その肝心の「自分たち」を整えるのに時間を要した。
最初の20分間は度重なる反則で躓いた。26分までリードされた。
明大には全国の俊英が集う。笛で劣勢を招いていれば仲間同士で規律を整えるよう声をかけ合っていてもおかしくないが、実際には膠着状態を長引かせた。昨季20歳以下日本代表となった3年生は言う。
「焦っていた、とまで僕は思わないですが、何かうまくいかないなかで『ビッグプレーをしてやろう』とか、少しずつ(本来のポジションより)前に出てしまっていたり…。気持ちの余裕のなさからペナルティーが出たのかなと。前回もそうですが、うまくいくと思ってやっていたらうまくいかなかった時には焦りが生まれます。どんなことが起きても、やることを徹底していかなくてはならない」
最後は今季初白星を得た。91-7。
この一戦では、チームのスタイルを貫くのも目指していた。体力温存を含めた80分トータルのマネジメントを鑑みれば、目の前にスペースがあってもキックでエリアを確保する選択肢もなくはない。しかし明大は自陣の深い位置からでも、アタックにこだわった。
改めて挙げたのは「自分たち」というフレーズだ。
「自分たちの形を再確認したかった。あえてしんどい選択をして、ひとりひとり、フェーズを重ねて、トライまで…と、僕のなかで決めていました」
隣のCTBに平翔太主将が怪我から戻ったこともあり、統率を取りやすくなった。多角度の仕掛け、防御を引き寄せながらのパスを連発した。味方の快走を引き出した。
今度は白星をもたらしたプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いても納得できたのでは。そう聞かれ、「小さいミスもあったので、まだまだもらえるレベルではないです」。神妙な顔をほころばせながらも慎重な構えだ。