イングランドで開催中の女子ワールドカップ。準決勝第2試合は、国歌を歌うフランスの選手の涙で始まり、初の決勝進出という目標を果たせなかった彼女たちの悔し涙で終わった。フランスはまたしてもイングランドのパワーとプラグマティズムに屈した(17-35)。
「イングランドと私たちの間にはまだ差がある」と試合後にガエル・ミニョ共同ヘッドコーチ(HC)は認めた。
「80分間、正確にプレーしなければなりませんでしたが、私たちはそうではありませんでした。そのミスを得点に結びつけられました。悔いも残ります。試合の流れを変えられるかもしれないと感じる瞬間もありました」
レ・ブルーの大敗という最悪の事態も予想していた。相手は、今大会それまでに38トライ、248得点を挙げて圧勝してきたイングランドだ。大会前の準備試合でも6-40と大敗を喫している。
フランスは大会に入ってからも波があり、準々決勝ではアイルランドに辛うじて勝ったものの、その代償として共同キャプテンのLOマナエ・フェレウ、FLアクセル・ベルトゥミューの出場停止、SOリナ・ケロワの脳震盪、さらに試合前日にはチームのXファクターであるWTBジョアンナ・グリゼの欠場が発表された。懸念材料が積み重なっていた。
しかしながら、ハーフタイムでレ・ブルーは5-7とわずか2点ビハインド。しかもボールポゼッション(65%)でもテリトリー(62%)でも優勢だった。
ただ、残酷なまでに非効率的だった。前半終了間際に2度のトライチャンスがあった。トライラインまで広いスペースが目の前に広がっていた。しかし、判断ミス、パスミスで潰してしまう。
一方、イングランドは調子が良くない時でさえ、確実に得点できる武器を持っている。後半開始直後、モールからトライを奪ってきた(46分、5-14)。すぐにフランスもイングランドのゴール前でフェーズを重ねて取り返す(52分、12-14)。その後、イングランドのペナルティから敵陣22mへ蹴り込んでラインアウトを投げ入れるが、ノットストレートでまたもやチャンスを潰す。
イングランドが勢いづく。フランスがタックルしてもレッド・ローゼズのパワフルな前進を止められず、トライを許す(59分、12-21)。チケット完売のブリストルのアシュトン・ゲート・スタジアムは一気に盛り上がった。
フランスもボールを持つが、イングランドの猛烈なディフェンスに阻まれて前に出ることができない。イングランドの10mでフランスが落球。スクラムからイングランドが低く蹴ったボールをWTBマリーヌ・メナジェが手で処理できず蹴り返した。
そのボールがイングランドのFBエリー・キルダンの腕におさまった。一番ボールを持たせたくない選手だ。キルダンはそのままフランスの選手に触れさせることなくトライゾーンへ駆け込んだ(69分、12-28)。
「ここで2本続けて取られたのが痛かった」とレ・ブルーのCTBガブリエル・ヴェルニエが試合後打ち明けている。
その後、フランスも反撃、トライを取り返す(73分、17-28)。まだ6分ある。しかし、イングランドがキックオフしたボールを、フランスはコンタクトで落としてしまう。22mに入られる。ボールを取り戻すが、タックルされ、サポートが遅れてペナルティを取られた。
ゴール前ラインアウトから追加点を狙うイングランドも、ボールを落としてフランススクラムになる。最後のチャンスだ。スクラムから出たボールを右へ回す。大外で待っていたメナジェまで届いた。しかし、ボールをキャッチしたメナジェの足はタッチラインの外だった。
フランスのトライラインから20m、イングランドはラインアウトから得意のモールで前進。フランスが抵抗する。モールが崩れたところでイングランドがボールを出し足で転がす。ゴールポストのクッションに当たって跳ね返ったボールを走り込んできたCTBメーガン・ジョーンズがキャッチしてそのままトライゾーンへ。とどめを刺された(79分、17-35)。
力の差を見せつけられた。「ここ数年、イングランド相手に私たちのラグビーができない」とヴェルニ。一方、メナジェは「勇気を持って自分たちのラグビーをしようとした。私たちのラグビーはイニシアティブを取り、それぞれが自己表現できるラグビーで、時にはうまく行き、時にはうまく行かないこともある」と言う。
イニシアティブをとるラグビー、果敢に挑むラグビーはフランスらしいが、それで勝つには、パスや判断の精度を上げなくては。さらに、カオスからカウンターで攻めたいなら、ラックでのサポートに遅れをとってはいけない。
セットピースも不安定だ。特にラインアウトでチャンスを失う。もはや、フレンチフレアだけでは強豪国から勝利を挙げられないのだ。
さらに、ディフェンスが彼女たちの武器となっているが、最初にキルダンに許したトライは、フランスのディフェンスのミスからだった。
ミスをしているのはピッチ上の選手たちだが、彼女たちの努力だけでは越えられない壁も感じた。現状の強化システムではトップ3との差は埋められない。今後に向けてのフランス協会の課題である。
初の決勝進出は果たせなかったが、フランスには4大会連続3位で終えるチャンスがまだ残されている。3位決定戦の相手は、準決勝でカナダに敗れたNZだ。
フランスは前回大会の準決勝でNZに1点差で敗れた(24-25)。その試合に出場していた選手12人が今週末のメンバーに入っている。その中には、トライゲッターのグリゼの名前もある。イングランドのキルダンがボールを持って疾走するたびに、「グリゼがいれば」と思わずにはいられなかった。
ボールが動くゲームになると見て、FBにエミリー・ブラールを選び、プレースキックの成功率が高いモルガンヌ・ブルジョワをメンバーから外した。3年前の対戦は、79分にPGが決まっていればフランスが逆転に成功して決勝に進出していたのだが。
ヴェルニエは「NZはここ数年、波のあるパフォーマンスを見せてきましたが、W杯では力を発揮して圧勝しています。準決勝では敗れましたが、きっとリベンジを狙ってくるでしょう。非常に難しい戦いになることは分かっていますが、この3位という場所のためにすべてを出し尽くします」と銅メダル獲得への強い意志を示した。
なお、イングランドとの準決勝のテレビ中継は、その時間帯に行われる予定だったトップ14の試合の開始時刻を遅らせたこともあり、フランス国内で平均380万人の視聴者を集め、アイルランドとの準々決勝の記録(平均視聴者数340万人)をさらに更新した。
「試合には敗れはしたが、選手はフランス人のハートを掴んだ。彼女たちを誇らしく思う」とフランス協会のフロリアン・グリル会長はチームを讃えている。
フランス代表チーム3位決定戦NZ戦メンバー