関西大学Aリーグが9月14日に開幕した。
第1節は昨年優勝の天理、京産大、関西学院、同志社が勝利する。最下位だった関大は天理に0-62と攻撃を封じられた。
関大主将のFL奥平一磨呂(おくひら・いちまろ)は試合後の会見で話した。
「一人ひとりの責任を見直さないといけないと思います」
落胆は大きかった。5月の春季トーナメントは19-17で勝っている。
開幕戦の前半は0-17だった。被トライは3つ。関大には少なくとも4回のトライ機会があった。ゴール前に攻め込みながら、ノックフォワード2回、スクラムコラプシング1回、モールが崩れたのが1回だった。15メートルを押し込みながら、詰め切れなかった。
この試合を見て、ある強豪チームのOB会首脳がつぶやいた。
「ちょっとした違いなんですけどね。ゴール前に来た時にスコアできるかどうか。それで試合が決まってしまいますね」
好機に関大が得点できていれば、その後の展開は違ったものになっていた。
春季トーナメントで関大は天理を19-17で降した。8強戦だった。天理からの公式戦勝利は「27年ぶり」と伝えられたが、それはお互いがBリーグ(二部)の時代である。ともにAリーグでの戦いでは57年ぶり。1968年(昭和43)のリーグ戦は13-9だった。
この年、関大はリーグ2位。8校制だった大学選手権は5回大会だった。初戦で優勝する早稲田に9-45で敗北した。大会出場は4回目。次は47年後の52回大会だった。セカンドステージ(プール戦)敗退だったが、定期戦を組む法政には29-24と競り勝ち、大会初勝利を挙げた。以後、出場はない。
関大は佐藤貴志が監督になり3年目に入った。44歳。SHとしてヤマハ発動機(現・静岡BR)で得た日本代表キャップは4。これまで、同志社、立命館、女子の追手門学院などを指導した。経験を積みつつある。
関大は開幕戦の後半、45点を取られた。いわゆる「切れた」状況だった。粘り強さは感じられない。50点つこうが、60点つこうがすでに負けは決まっている。7点差以内の敗戦で得る勝ち点1を取れる可能性もない。そう思った学生がいても不思議ではない。
ひとつ言えるのは、その気持ちや戦い方では次につながらない、とうことだ。リーグ戦はあと6試合残っている。そう簡単に前戦をなかったことにして切り替ることは難しい。さらに、振り返った時、結果はまた心のよりどころになる。勝利というのは、必死さを積み上げた先にある。ある日、急に強く、勝てるようになったりはしない。
広島東洋カープのOBに安仁屋宗八という元投手がいる。81歳。沖縄から初のプロ野球選手という触れ込みで入団。プロ通算18年で655登板119勝を挙げた。現役引退後はコーチや評論家をつとめている。
その安仁屋が何かで書いていたことがある。敗戦処理を任された投手に向けてだった。
<負けは決まっているから、何点取られようが同じだ、そういう風に考えるピッチャーに次のチャンスは回ってこない>
結果を考えず、どのような状況でも全力を尽くす。そのことの大切さを伝えている。
では、投げやりにならないで戦うにはどうすればよいのか。姫野和樹の『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)にそのヒントが書かれている。
<目の前だけにフォーカスする>
安仁屋と同じ。野球なら打者ひとりとの対戦、ラグビーならひとつのボール争奪戦、コンテストやスクラムだけに集中する。
姫野はさらに自著で述べている。
<スコアボードを見るな>
過去は変えられない。今、そしてこれからは変えてゆける。姫野は31歳。バックローとしての日本代表キャップは36。所属するトヨタVでは主将もつとめている。
失点60を50にする。それを40にする。たとえ負けても、相手チームに、そして観衆に印象を残す。そうしなければ、4か月ほどの長いリーグ戦を戦えない。
一方の天理は一生懸命さが見られた。55-0と圧倒した後半42分、関大WTBの一瀬爽(いちのせ・そう)がこぼれ球を拾い、守備ラインを突き抜けた。ここでトライを取られても、天理としては大勢に影響はない。
ところが、その一瀬を外からWTBフコフカ・ルカス、後ろから共同主将SOの上ノ坊駿介が追いかける。2人でランナーを緑芝に叩き伏せ、ひとつのトライも許さなかった。
東屋あさ子は花園ラグビー場のスタンドから試合を見ていた。
「あんなことがあったからな」
あんなこととは6月にあった部員2人の大麻使用による逮捕である。メンバーはその汚点を払しょくするために戦った。
その思いが東屋には伝わってくる。東屋は河内花園の駅前にある花園ラグビー酒場の女将であり、花園Lを30年近く応援する筋金入りのファンでもある。
本来、大学生において、そう大きな力の差はない。個人的に高校時代にレギュラー争いに負けたかもしれないし、志望校に行けなかったかもしれない。しかし、大学はまた別ものである。挽回する機会はいくらでもある。18までの勝敗をさらに22歳にまで引きずって、いいわけがない。
ラグビーにおいて負け犬にならないためには、姫野の書いたように、「今」に焦点を置く。自分自身が選んだラグビーにしっかりと向き合う。その姿勢はまた、チームに波及する。そして、それぞれの豊かな人生はそのような4年間を過ごした先にある。
やらなきゃね。