■ワールドカップ2025イングランド大会
・8月24日@フランクリンズ・ガーデンズ(ノーサンプトン)
【女子アイルランド代表 42-14 女子日本代表】
試合後、顔をくしゃくしゃにして涙を流す選手たちの姿があった。
大会の日程が決まってから、ターゲットにしてきた「8月24日」の試合を落としたからだ。
ワールドカップ2025イングランド大会。初戦でアイルランドと戦った女子日本代表”サクラフィフティーン”は、14-42で完敗した。
臨んだ試合展開にはならなかった。世界ランキングで6つ(11位、5位)上回る相手に対し、先制パンチで相手を慌てさせることができなかった。
試合開始直後こそ、モールの前進を阻むなどピンチを脱したが、開始10分で14点を失う。
5分にラインアウトからのアタックで左サイドを攻略され、10分にはモールを押し切られた。
日本はパスミスやラインアウトでのミスを重ねるも(ラインアウトの成功率は69%)、相手のラインアウトにプレッシャーをかけ、何度も敵陣22メートル線内でミスを誘った。
しかし、激しいディフェンスを前に攻めあぐねた。
24分にはファーストトライを挙げたWTBエイミー・リーコスティガンに再び走られ、反対のWTB、ベイヴィン・パーソンズのトライを許す。
0-21とリードを広げられた。
29分にはテンポの良いアタックでようやくトライ(CTB弘津悠)を挙げるも、37分にはCTBイーヴ・ヒギンズのクリーンブレイクから4トライ目を与え、7-28と21点差のまま前半を終えた。
レスリー・マッケンジーHC、マーク・べイクウェルFWコーチらから檄が飛んだのはハーフタイムだ。
「自分たちがやってきたことをやっていないじゃないか」
それが緊張からなのか、勝ちたい気持ちが強いからなのかは分からない。
ただ、LO吉村乙華は「後半はやらなければいけないと、もう一度スイッチを入れられました。相手がどうこうではなく、自分たちが本当にやるべきことにフォーカスできた」と明かした。
「前半は自分たちらしくないと言いますか、セットピースの安定が自分たちの強みですが、そこが上手くいかなかった。自分たちで自分たちのペースを崩してしまいました。身長の高い相手に対し、見えないプレッシャーを受けた。ボール(の軌道)があと数センチ低ければ、リフトがあと数センチ寄れていれば、という本当に小さなミスが続きました」
SH津久井萌は「もっとテンポを上げていくよ」と仲間に伝え、グラウンドに戻ったという。
「スイッチが入っていたわけではないけど、ギアを上げないといけない。後半の最初は良いモメンタムでいけて、そこは通用したと思います」
反撃は3分から始まる。粘り強く攻めて相手の反則を引き出すと、強みのモールで前進。最後はFL川村雅未が押し込んだ。
その10分後には、カウンターアタックからチャンスを作った。
右から左に展開し、FL川村がライン際でロングゲインを勝ち取る。WTB今釘小町、NO8齊藤聖奈、WTB松村美咲と連続でボールを前に運び、ついにゴール前まで迫った。
悲劇が起きたのはその直後だ。ポール下めがけて走り込んだPR加藤幸子へ放ったSH津久井萌のホップパスに、CTBヒギンズがインターセプト。そのまま約90メートルを走り切られた。
トライが決まっていれば7点差のシーンで、逆に21点差まで点差が広がった。精神的ダメージは大きかっただろう。
津久井は試合を振り返り、「さっちゃんからのコールも聞こえていて、来てくれているとわかっていました。でも、もう少し自分がキャリーして、相手がどういう風に動いているかを見てから投げればよかったです」。
「インターセプトから流れを持っていかれた。あのときに戻りたい気持ちがめちゃくちゃ強い」と続けた。
それ以降は拮抗した時間帯が続くも、24分にトライを許し、追加点は奪えなかった。
レスリーHCは相手が一枚上手(うわて)だったと認めた。
当初は両者が強みとするテリトリー勝負(キック勝負)がキーポイントと見ていた。
しかし、勝負を分けたのはセブンズ代表経験者たちの脚力だった。
予想以上にFWがコンタクト局面で受けて中央に集められたことで、スペースを作られたことも大きかった。
「CTBのランで仕掛けてくるなど別の形の武器を見せてきた。そこにわれわれが順応できませんでした」
キックにおいても、SH、CTB、SO、WTBといろんなポジションから蹴った日本に対し、その精度はアイルランドの司令塔、ダナ・オブライエンに分があった。
「蹴ってくると分かっていたけど、しっかりとスペースに落としてきたし、クロスキックやハイパントなどキックの種類の多さを見ても10番が上手だと感じました」(津久井)
前回大会からの成長は肌で感じられている。しかし、相手もまた進化を遂げていた(アイルランドは前回大会不出場)。
ただ、収穫は多かった。
後半から出場したリザーブ陣が奮闘。前半になかなか前に出られなかったFWがゲインラインの攻防で優位に立つ場面を増やし、BKが冷静に素早くボールを回した。
レスリーHCも「リザーブのプレイヤーたちの貢献度には目を見張るものがあった」と称え、後半の戦いぶりを「心から誇りに思う」と語った。
「どつやって回復するのか、われわれの方に流れを引き寄せるのか、そうした修正した姿を見せられました。後半のジャパンは観客の方も敬意を抱くようなパフォーマンスを見せられたのではないかと思っています」
先発メンバーでは、FL川村雅未、CTB弘津悠が攻守に光った。
両チーム最多の18回のボールキャリーと存在感を放った川村は、「(ボールタッチが)今日は特別多かった」と振り返り、その要因を「みんながボールを(外側まで)回してくれた」からとした。
前回大会出場時は1試合の出場、21分のプレータイムにとどまった。
しかし、この試合では80分間、グラウンドに立った。
「結果がついてこないと満足はできない。プレータイムをいただけている分、しっかり結果も残したいです」
BKではチーム最多のタックル回数(12回)を記録した弘津は、今大会が初のW杯。15人制に転向したのはわずか3年前だ。
「自分の成長だけを見れば、15人制を始めたときからステップアップできていると感じました」
セブンズでは東京五輪に出場するなど、国際舞台の経験は豊富。「いままでで一番緊張しました。(前日の夜は)あまり眠れなかったけど、ピッチに入ったときは何をすべきかはクリアでした」と活躍のわけを話した。
試合後のロッカールームで、レスリーHCは「これがW杯だ」と伝え、選手たちを鼓舞した。
重要な一戦を落としても、大会は続く。来週(31日)にはエクセターで世界ランキング3位のニュージーランドとぶつかる。
明日からの過ごし方について、「われわれがとても良くできていた部分を強調していく。ここがすべてだと思っている」とし、「今日は流れを掴むまでに時間をがかかりましたが、トレーニング通りに行かないことは、最高峰の舞台であるW杯ではつきものです。前に進むしかない」と話した。
津久井曰く、「すべてが上手くいったときは通用する」。
「良いキャリーで、ちょっとでも前に出てて、良いサポートがいて、良いセットができてっていう時がやっぱすごい良いテンポが出てたので、みんながそれぞれの仕事をすべて果たしたときに良いアタックができました」
その回数をいかに増やしていけるか。来週こそは、試合開始から果敢に攻めたい。