相手は止めづらいだろう。松村美咲。女子15人制ラグビー日本代表のフィニッシャー候補だ。
身長169センチ、体重68キロと縦に長くシャープなシルエットで大胆な急加速、ゆったりとしたフットワークを緻密に絡める。タックラーの意表を突く。
7月26日、東京・秩父宮ラグビー場。対スペイン代表2連戦の最終戦へWTBで先発した。自身にとって2戦連続となる出場だ。
後半20分には持ち場の右端で鮮やかにフィニッシュ。中盤のカウンターアタックでも、タックルをひらりとかわして目立った。
「カウンターアタックでは間合いがある中での勝負になり、自分の強みであるステップを活かせる」
30-19で勝った。しかし、反省する。
前半8分頃、ゴールライン上でのグラウンディング時に球を地面に弾いてしまった。続く後半37分頃には、フリーで回ってきたパスを捕れなかった。計2度の得点機を失った。
だから「個人的には課題の多く残る試合でした」と悔やみつつ、切り替え、先を見据える。
8月下旬からイングランドで、原則4年に1度のワールドカップへ出る。
初めて大会登録メンバーに名を連ねるのに先立ち、こう展望した。
「単純なハンドリングエラー以外で言えば、自分が余裕のある状態でボールをもらえるように(早い声掛けを意識)。本番(ワールドカップ)ではトライを獲り切れるようにしていきたいです」
普段は早大の3年生だ。在籍するのは東京山九フェニックス。15人制で国内3連覇中の強豪だ。男子のリーグワンに挑む、清水建設江東ブルーシャークスの施設を使う。
ブルーシャークスには、リマ・ソポアンガが在籍していた。
ニュージーランド代表、サモア代表で選出歴のあるSOで、フェニックスのメンバーにはゴールキック、陣地獲得の足技を指導していたようだ。松村はその技術に触れながら、朗らかなソポアンガのメンタリティにも感銘を受けた。
「自分のパフォーマンスがよくなくて、少し相談に乗ってもらったら、『どんなトップ選手でも常に完璧なわけではない。最高の準備をして、試合ではプレッシャーを力に変えて楽しんで』と」
己に過度な重圧をかけず、置かれた状況で最善を尽くす。その心がけは、故障との向き合い方にも表れる。
最近、グロインペイン症候群という股関節周辺の痛みに悩まされていた。
リハビリの方向性を模索するさなか、代表スタッフの紹介でカナダへ渡った。その道の名手に3日間、調整方法を伝授され、カムバックのきっかけを掴んだ。
「先が見えないなか、これからどうすれば怪我がよくなるかを教わりました」
トレーニングやゲームの前後に、現地で学んだケアメニューを繰り返してきた。地道な積み重ねの末、7月のシリーズでは昨年10月以来となるテストマッチ復帰を果たした。
その流れで27日、イングランド行きの切符を掴み、「支えてくれた方に恩返しを」。20歳での選出は最年少となる。