これはまずいのではないか。
7月12日、兵庫のノエビアスタジアム神戸で観客を心配させたのは、石田吉平である。
ラグビー日本代表の14番として、対ウェールズ代表2連戦の最終戦に先発。前半3分頃、敵陣22メートル線付近右での空中戦にチャレンジした。
着地と同時に、足を引きずるようなしぐさを見せた。
尼崎市出身のご当地選手で、現在は横浜キヤノンイーグルスに所属する25歳。身長167センチ、体重75キロと小柄も鋭いフットワークで国際舞台に挑んでいた。
件の瞬間を後述する。
「力が入らなくて走れない状況やったんですけど、痛み止めをもらって…。折角の地元なのにすぐに交代…という姿は見せたくなかった。気持ち、固めて、プレーしました」
本人が「痛み止め」を処方されたのは、早くともハーフタイムにロッカールームに戻ったタイミングであろう。少なくとも40分弱は、痛みをこらえてプレーしたこととなる。
国同士が争う場で、しかもキックオフ早々にトラブルを抱え、その場にいるべきか否かを多角度的な視点で判断していた。
「もし足を引きずってパフォーマンスが落ちるのであればすぐに交替させられる。それはエディーさん(・ジョーンズヘッドコーチ)が決めること。全力でやろう、と」
試合は22-31で敗れた。シリーズ2連勝を逃した。
石田が苦労したのはハイボール合戦。高い弾道のキックの競り合いだ。
国内リーグワンでこのエリアに臨む折は、ばねと積極性で相手との身長差をカバーしていた。
しかしこの午後は、好ジャンプを繰り出した際も向こうに手をかけられた。自軍ボールの確保は限定的となった。
元サッカー日本代表の本田圭佑氏を尊敬するアスリートは、潔く述べる。
「たくさんハイボールがあったなかで(肌感覚で)3~4割くらいしか確保していない。求められるのは、8~9割の確率で相手を邪魔すること。そんな要求をもらえるようになっていきたい。もっと勉強したいです」
ハイボールのコンテストは、現在の国際シーンで避けられない。上位国が揃える長身のWTBを見据え、石田は改善を誓った。
「(対面と)同じタイミングで飛んでしまうとどうしても高さで(劣勢)…となってしまう。やっぱり、先に飛ぶ(のが大事)。工夫していきたいです」
執念をアピールし、かつ大きな学びを得て、夏の代表戦シリーズを終えた。