何キロあんの?
「言えませんよ。そんなこと」
まん丸顔は笑う。ラグビー人の相馬朋和にとって、体重は機密事項であるらしい。
でも、ヒントをくれる。
「大谷翔平のスライダーくらいです」
優しい人だ。ってことは160キロ?
それはストレート。
その大きな体には、責任や愛などがいっぱい詰まっている。48歳。帝京の監督を3年前、恩師でもある岩出雅之から譲り受けた。
今年はチーム2回目の大学選手権5連覇を目指す。それは通算14回目優勝となり、明治をひとつ上回り、単独2位となる。
相馬は6月最後の週末、大阪にいた。監督として関東学生代表を率いる。関西ラグビー協会の創立100周年記念として、関西学生代表と戦い、55-28で降した。
勝利監督は試合後、謝罪から入った。
「山村くんに申し訳ありません」
明治所属の山村和也が前半、ケガで退場した。救急車が来る。相馬は下を向く。責任を感じる。明かりが消えたようになった。
基本的に相馬の歩むところは春風駘蕩。春の風が穏やかなように、のんびりした雰囲気が漂う。その盛り上がった体をおすもうさんのようにペチペチと叩きたくなる。
どうも理由があるらしい。相馬の身内に感受性の豊かな人がいる。
「あなたが来れば、ざわざわしていたものが、落ち着く」
形而上のものにも魅力があるようだ。
競技を始めたのも導かれ感がある。母方の祖父が亡くなって、急に思い立った。
「おじいちゃんは満州でラグビーをやっていました。スクラム・センターでした」
山田精治は戦前、日本が実質統治していた中国東北部におり、今のHOをこなしていた。
それまでは、サッカーからスタートして、バスケをやった。その思いは東京高の部長兼監督だった秋葉和秀につながる。祖父がやったスポーツを孫が継ぐことになる。
東京高では2年生LOとして、チーム初の全国大会出場に貢献する。大会は74回(1994年度)。1回戦で東福岡に15-16で敗れた。翌年度、PRとして高校日本代表入り。その道は帝京から現在の埼玉WKと続く。
埼玉WKの前身である三洋電機に入ったのは2000年。5年後、11月5日のスペイン戦で初めて日本代表キャップを得る。44-29の勝利を支えた。その山のような体でスクラムの柱石となる。キャップは24を得た。
ラグビーへの導かれ同様、その閲歴の中では不思議なことがいくつもあった。
「自分で説明がつかないプレーが出るんです」
現役最後の試合、51回日本選手権の決勝もそうだった。2014年3月9日にあった。
LOダニエル・ヒーナンがWTB廣瀬俊朗に内を抜かれる。「トライ」とみなが思った瞬間、なぜかそこに相馬がいた。
「自分でびっくりしました」
パナソニックに変わったチームは東芝(現・BL東京)に30-21。リーグワンの前身、トップリーグとともに初の2冠を達成する。
相馬は選手とコーチとして、優勝はトップリーグ5回、日本選手権は6回を重ねた。肩の上の辺りに指で円を描く。
「おじいちゃんがこの辺で見守ってくれているじゃあないかなあ、と思っています」
スピリチュアル的なものを感じている。
その相馬を岩出はあまたのOBの中から監督に据えた。自分は顧問に退く。
「岩出先生は私や学生が見えていないところを指摘して、指導してくださいます」
肩や首を痛めた選手たちのための個々のタックル練習も岩出が導入を提唱した。
岩出は日体大の現役時代、バックローとして両肩ともに脱臼の経験がある。
「そこからの岩出先生の練習です」
選手の不安を解消させ、タックルに自信を持ってもらう。その狙いがある。
師弟としての付き合いは30年。岩出は相馬の代の高校日本代表の監督だった。2人は1996年、帝京と縁を結ぶ。相馬は新入生として、岩出は監督に就任した。
岩出が監督だった時代から続く、2回目の5連覇に対する思いが相馬にはある。
「まず、4年生たちと過ごすところに重き置き、彼らを大切にしていきたいです」
学生スタッフを含めた最上級生は36人。
その責務を果たした先に連覇がある。
学生に向き合うため、練習時の服装も時間をかけない。Tシャツ、短パン、キャップ、靴まで黒一色と決めている。
「これを6セット持っています。スティーブ・ジョブズと一緒です」
アップルの創業者に範をとる。
先ごろの関東春季大会は優勝したものの、最終戦では早稲田に35-36で敗れた。
「勝利に対する執念を見せつけられました」
その敗戦を踏まえ、これからを語る。
「ボールの争奪、それに生命線であるスクラム、ラインアウトの質を上げていきます」
夏合宿は8月10日から29日までの日程で例年通り長野・菅平で実施する。
打ち込むラグビーのよさを相馬は話す。
「人が忘れようとしている、思いやる、助け合うなど大切なものが詰まっています」
学生たちへの指導には、<人類のため>という崇高なものも含まれている。
だからこそ、ご自愛を。何かあれば、悲しむ人がたくさんいる。
相馬と同じカテゴリーを経験したひとりにドクター小山がいる。私は血圧が高い。その献身的な治療で生かしてもらっている。
今の血圧? 言えませんよ。そんなこと。