日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
26回目となる今回は、昨季の反省とする集客の改善策を語ってもらい、ラグビー界に蔓延る誤ったホストスタジアムとホストエリアの考え方を斬ってもらった(7月4日)。
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――2024-25シーズンが終わって1か月半ほど経ちました。
スポンサーや自治体の挨拶回りをほとんど終えました。
実はスケジュールを見ると、シーズン中よりも過密なんです。
分刻みで予定が入っていて、スポンサー企業の経営者の方や自治体の首長に挨拶をする。夜に会食というケースもあるので、朝から晩まで予定が詰まっている状況です。
――スポンサー営業の佳境は終えている。
スポンサー営業はシーズンの中盤戦以降、2月から4月くらいでかなり各社と次シーズンの下地となる話を進めています。シーズン終了の挨拶回りを経て、この後の7月から8月に契約締結というプロセスです。
現時点では、ほとんどのスポンサーに継続していただくことになっています。
――昨年は試合のジャージーにスポンサーを入れたいと話していました。
ジャージーに掲載するスポンサーの商談は、いまから話し始めて決まることはなかなかありません。
ジャージーの制作スケジュールを考えると、リミットは8月から9月ぐらいまでです。
それ以降でも圧着プリントのように貼ることはできるのですが、基本的には最初のジャージー制作の時点からデザインにスポンサーロゴを組み込むやり方で進めたいと思っています。
われわれは、実はジャージーを2シーズンおきに作り替えているんです。
多くのチームは毎年作っていると思うのですが、毎年作り直すのはやはりそれだけコストがかさみます。
なので、スポンサー契約もジャージーについては2シーズン単位にしているんです。今シーズンは切り替えの年なので、営業のチャンスです。
ただ、やはり高額の商材ですから簡単に決まることはありません。
昨季はシーズン途中から、地元企業である建設システム様にパンツへのロゴ掲載をご協賛いただいたり、プレーオフ限定でジャージースポンサーをやっていただくケースもありました。
翌シーズンは使わないジャージーになるので、空いているスペースにプレーオフ限定で比較的リーズナブルな価格設定で入れていこうと。
そうした企業さんに対して、次シーズンは開幕当初から入れてみませんか、という商談をしている状況です。
――広告スペース(商品のラインナップ)を増やしていくことは、常に考えていること。
そうですね。売り物がないと売れませんから、スタジアムのこのスペースであればさらに広告看板を出せるのではないかなど、打ち合わせをしている状況です。
今シーズンは練習で選手たちが着るトレーニングウェアであったり、コーチ陣が着るジャケット、事業スタッフが着るウェアなどにもスポンサーを入れていきます。
練習着にはリーグのルールがありませんので、何社でも入れていいわけです。なので比較的売りやすいですし、選手が身につけるものにロゴを出す最初のステップとして、トレーニングウェアから協賛いただくケースは結構多いんです。
練習着とはいえ、練習風景の撮影でメディアに露出することは多々ありますし、やはりウェアにロゴが入っていると、チームを応援している感覚が強く出ます。
企業さんがどうロゴが映るかをイメージしやすく、次は試合のジャージーにも入れてみましょうという商談に繋がりやすいんです。
今季は各種ウェア類にレーシングチームのように企業ロゴが掲出される感じになると思います。
――社数や売り上げも上がる見通し。
どちらも増えると思います。なのでスポンサーの営業担当も、社内の異動で一人増やしました。
前回もお話ししましたが、スポンサー企業が200社を超えています。
このままだとお客さんとの接点が希薄になってしまいますし、それに加えて新規のスポンサーも取ってこないといけないので、人員を増やす必要がありました。
――スポンサーの他に、事業スタッフの動きはありますか。
昨季の課題は集客に尽きます。数字が唯一伸び悩んでいるセクションです。
平均観客動員数についてはリーグ全体でマイナス20%、ディビジョン1では11%下がっています。これには強い危機感を感じています。
それに比べれば、われわれはほぼ横ばい(マイナス1%程度)にとどめることができましたが、組織として集客にもっとフォーカスできるように組織を7月から体制変更しました。
これまでは、地域のイベントや自治体との関係を作る「地域連携」の部署がありましたが、いまはその部署をなくし、集客や試合運営にかかわる部署に集約しました。
引き続き地域連携の仕事をやりながら、そうした動きを集客に繋げていくためです。
また、試合運営(ベニュー・イベント部)、チケットのマーケティング(ファンマーケティング部)、グッズ(マーチャンダイジング部)といったBtoCに関わる領域を「ファン・チケット事業統括部」として3つの部を束ねる部門も新しく作り、そこに責任者を置きました。
そもそもの経緯で言うと、以前は試合運営とチケットのマーケティングは同じ部署でやっていたんです。
ただ、この両方を1つの部でまかなうのは負担が大きいので、2つの部署に分けてそれぞれにマネジャーをつける形で試合運営とチケットマーケティングぞれぞれに専念してもらうようにしました。
一方で、それらBtoCに関する事業を統括する部門を今回作ることで、試合運営・チケットマーケティング・グッズそれぞれの事業のシナジーを高めてもらいたいとも思っています。
――こうした組織体制は頻繁に変えるタイプの経営者ですか。
そうですね。組織は毎年少しづつ変えています。総務からは名刺の作り直しが大変です、と言われてしまうのですが(笑)。
成長の段階に応じて組織は柔軟に変わっていくべきかなと。アメーバのようにくっついたり、離れたりして、その時々で役割を明確にすることが大事だと思っています。
事業として一番テコ入れしなければいけないところにしっかりフォーカスする意味でも、必要に応じて組織体制を変えることは大切だと感じます。
ただ、これに正解はありません。地域連携の部署がなくなってしまったので、今後は地域との連携では不具合が起きたり、連携を密に取れなかったり、色んな混乱も招いてしまう可能性もあります。
ですが、そのデメリットよりもメリットのほうが上回ると思い、今回はこの組織体制にしました。
――積極的に組織体制を変えていったことで、上手くいった経験がある。
例えば、事業が拡大していけばその分野に人員を投下して独立性を高めていく必要がありますが、その部署に多くの人数が偏ってしまうとその分マネジメントが難しくなる。事業をの成長に応じて融合や分離を考えなければいけないケースは多々あるわけです。
グッズの部署も会社設立当初はなかったんです。売り上げが大きくなってきたので、切り離して考えていこうということになりました。
今後は「普及・育成」の部署も、普及と育成で分けていく議論も出てくると思います。
われわれが実現したい「育成」のひとつは、U18のチーム、サテライトチーム(2軍)を作ることです。それは、より強化に近づいていく話になるので、普及とはまったく別の動きになります。
そしてこの7月からは、「部署横断プロジェクト」と銘打った取り組みもしています。
その一つが「ゲームプロモーション」プロジェクトです。集客を担うファンマーケティング部の責任者が主導していくのですが、スポンサー企業の従業員をどう呼ぶかだったり、普及活動との連動だったり、SNSとより連携するために、いろんな部署からメンバーを出して集客に向けたミーティングをおこなっています。
「全社コミュニケーションインフラ」プロジェクトでは、社内やクラブ内のコミュニケーションをもっと活性化するための施策を考えています。
例えば、強化部スタッフや選手たちは基本的に練習場(大久保グラウンド)にいてほとんど顔を合わせないので、チケットどれくらい売れているのか、スポンサーがどのくらい決まっているのかなど、事業部がやっていることを選手たちも常に見られるようにしようと。
――話は変わりますが、フィジー代表のスター、セミ・ラドラドラ(CTB)を獲得しました。
来季に向けてはたくさん選手を入れ替える方向ではなく、ブルーレヴズの現状の編成にフィットする選手であったり、より強くなるために必要な選手を獲得しようという方針で編成を進めてきました。
これでスコッドはほとんど固まったと思います。
――これでカテゴリCは4人が在籍。その一人でラドラドラと同じCTBのヴィリアミ・タヒトゥアがプレイングコーチになりました。
11月にリーグに選手登録をする際に、選手のコンディションやスコッドの状況を見極めて、カテゴリCの登録上限数である3人を選ぶとしか現時点ではいえません。
ただ、そうした中で仮にタヒトゥア選手がその3人に入れなかったとしても、プレイングコーチとして貢献してくれることになりました。
彼は外国籍選手のリーダー的役割を担ってくれているので、われわれとしても選手、コーチ問わずチームに残ってほしいと思っていた中で、話し合いをして合意することができました。
――また話題を変えますが、浜松の新しい球技場の件がなかなか進みません。
新スタジアム建設は県の事業で、いま県の財政がかなり厳しいという知事の発言もあり、トーンダウンしていると思います。
できるにしても、もう少し先の話になると思います。
ただ、他の案を考えることは辞めません。ジュビロ磐田さんの意向もあるのでわれわれが主体的に動ける状況ではないですが、ヤマハスタジアムの改修のような構想がないかアンテナを張っていく。
こうあるべき、こうしたらいいということを投げかけていかないと何も始まりません。
新たなスタジアムの確保については色々もがいていこうと思っています。
――スタジアムの話では、先日、SC相模原の海老名移転が話題に上がりました。
スポーツビジネスの根本的な考え方として、一番大事なのは試合を開催する日に確保できるスタジアムがあるということです。
交通の便が良い悪いなど考えなければいけないことは多々ありますが、自分たちがより稼げる、より自由度高く使えるスタジアムを確保することがこのビジネスの価値の源泉であり一丁目一番地です。
SC相模原さんの件も、ホームタウンエリアの中にそうしたスタジアムがあるならばそこにコミットするべきでしょう。
ホストエリアの中でできないのであれば、ホストエリアそのものを変えることを考えないといけない。
三重ホンダヒートさんのような(2シーズン後に宇都宮に移転する)ケースが、今後も出てくるのではないかと思います。
現状のホストエリアの中で試合ができるに越したことはないですし、リーグがライセンスを作れば自治体への交渉材料になりますが、ただリーグワンはライセンスの策定に消極的です。
本来はクラブ名に入っている地域、すなわち自分たちがマーケティングしていくと定めた地域にホストスタジアムを持つべきなんです。
ファンからすれば、そのクラブの試合を見るのはスタジアムなわけですから。
ラグビーは企業スポーツだった頃の考え方がまだ残っているので、練習拠点や母体企業の工場や拠点のある場所=ホストエリアという認識ですよね。
発想が逆なんです。
例えば、(Jリーグの)サンフレッチェ広島の練習場はスタジアムのある広島市内ではなく、安芸高田市にあります。水戸ホーリーホックも、練習場は水戸市ではなく隣の城里町です。
スタジアムやホームタウンとなる街から少し離れた場所であっても、練習場としてはグラウンドを何面も確保できる場所があればいいわけです。
試合をするスタジアムがある場所が自分たちの本拠地であり、ホームタウンです。
ラグビーがこの発想の転換ができていないのは、集客においては致命的だと思っています。
そうした意味でヒートさんの移転は英断だと思っています。
自分もかつて宇都宮で仕事をしていて土地勘があるからそう思うのかもしれませんが、ヒートさんは宇都宮市内に交通の便の良い球技専用のスタジアムを優先的に確保できるわけですから。どの地域のどの場所やスタジアムに軸足をおいてマーケティングや事業を行っていくのか、ということをまず中心に考えていかないといけないと思います。
栃木でなくても、例えば札幌ドームとかD1チームが地方開催で使っているスタジアムなど、都心部よりも自由度高く使えるスタジアムはまだたくさんあるはずです。
それに、積極的にプロラグビークラブを誘致したいという自治体もあると思います。
私もBリーグ時代に茨城ロボッツの本拠地をつくば市から水戸市に移転しました。
当時つくば市では住民投票でアリーナ建設が中止され、試合をするアリーナを確保できなかったからです。
同じような話が浜松の隣の豊橋(愛知)でもあり、新しいアリーナを作るかどうかを今月に住民投票するそうです。
豊橋に試合をする拠点を構えている三遠ネオフェニックスは今季ベスト4に入った強豪クラブです。このアリーナがができないとなると、Bプレミアのライセンスにも影響が出ると思います。
移転となれば選手も引っ越しを余儀なくされますし、地域との関係性をまた1から作らないといけない。私も経験したのでその大変さはわかります。
それでも、試合をする本拠地となるスタジアムの確保というのは、クラブ経営を考える上では最上位におかれる重点事項であり、そのためにはホストエリアの移転も時にはやむを得ないということになるわけです。
PROFILE
やまや・たかし1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
