就任2年目でのウエールズとのテストマッチ。夏の猛暑の中でのデーゲーム。さまざまな要素が、歴史的金星を挙げた2013年6月15日に重なった。
「今の日本代表にはブレイクスルーとなる試合が必要。このタイミングでウエールズと対戦することに、運命的なものを感じます」
6月の菅平合宿でエディー・ジョーンズHCが語っていた言葉が、現実のものとなった。
2025年の日本代表のファーストテストマッチとなった、7月5日のウエールズ戦。福岡県のミクニワールドスタジアム北九州に1万3487の大観衆を迎えておこなわれたゲームで、日本代表が24-19の勝利を収めた。
気温34度、湿度70パーセント近い過酷なコンディションの中、午後2時にキックオフされたこの一戦。開始直後にウエールズのLOベン・カーターが負傷し、5分以上プレーが止まるという波乱の立ち上がりとなったが、先にスコアを刻んだのはそのウエールズだった。
3分、ゴール前でのペナルティを右コーナーに蹴り出して得たマイボールラインアウトからサインプレーを仕掛け、CTBベン・トーマスがあっさり突き抜けてトライラインを越える。SOサム・コステロウのゴール成功で7-0と先制した。
汗でボールが滑る状況にイージーエラーが重なり、なかなかチャンスをつかめなかった日本代表が反撃に転じたのは16分だ。相手陣22メートル付近の右ラインアウトからオープンへ展開し、ブラインドサイドから回り込んだWTB石田吉平がラインブレイク。外でパスを受けたFB松永拓朗が滑らかな走りで左中間へ飛び込み、7-7に追いつく。
しかし19分過ぎ、中盤のラックから左奥へウエールズがキックを蹴り込んだシーンで、松永に代わり急遽FBに入った中楠一期が相手と競り合う中でボールを故意に外へはたき出してしまう。このプレーがペナルティトライとなり、さらに中楠にはイエローカードが提示された。
優位な状況となったウエールズはさらに22分、センタースクラムから右サイドに持ち出し、タッチライン際でパスを受けたWTB トム・ロジャースがフリーに。そのままトライゾーンまで走り抜けて19-7とリードを広げた。
もっともその後は両者とも猛暑から動きが鈍り始め、プレーがブツ切れになるスローな展開に。キックオフからちょうど1時間が過ぎたところで前半40分のホーンが鳴り、ハーフタイムとなった。
後半。暑さをふまえ早めに勝負を決めたいウエールズは、立ち上がりから気迫を前面に押し出してたたみかける。しかし日本代表はキャプテンのFLリーチ マイケルを筆頭にディフェンスで厳しく体を当てて対抗。ピンチでよく踏みとどまり、次第に流れを引き寄せていく。
10分以降はウエールズの足が目に見えて止まり始め、ラインアウトではLOワーナー・ディアンズとFLジャック・コーネルセンが再三スティールに成功。そして19分、身上のスピーディーな連続展開からFB中楠が左コーナーにトライを挙げると、流れは大きく日本代表の側へと傾いた。
22分にFLベン・ガンターが左隅に飛び込んだシーンは直前のパスがスローフォワードだったという判定でトライにならなかったものの、その流れの中であったペナルティをSO李承信のPGで3点に変える(17-19)。
30分には中盤で得たペナルティからゴール前左ラインアウトへ。BKまで加わったモールを渾身のドライブで押し込むと、サイドに持ち出したWTBハラトア・ヴァイレアがフィニッシュし、ついに24-19と逆転した。
終盤はお互いに残る力を振り絞っての消耗戦となったが、日本代表の集中力は途切れない。出足鋭いラインディフェンスでウエールズの反撃を封じ、着々と時計を進めていく。
最後は相手陣でしっかりとボールキープしながら時間を使い切り、SO李がタッチへと蹴り出してノーサイド。フルタイムの笛に、サクラの戦士たちが歓喜の拳を突き上げた。
日本代表史上2度目となるウエールズからの勝利を手にした一戦を振り返り、エディー・ジョーンズHCは「前半は緊張もあり、ボールを簡単に渡してしまうシーンも多かったが、ハーフタイムに選手たちの目を見た時、これから自分たちがどう戦うべきかという確信の光を感じた」とコメント。
また攻守に八面六臂の活躍を見せたFLリーチキャプテンは、「チームにとって非常に大きな勝利。試合前からこの試合の大切さは一人ひとりがわかっていた」とこの一戦の重要性を力強い言葉で表現した。