ラグビー日本代表へ呼ばれるたびに、顔にあざを作っているような。
そんな実感があったからか、原田衛は「毎年なんですけど」。7月2日にオンライン会見に応じた折、画面に映る左目の周りを気にしているようだった。
どうやら今度の傷は、「先週の金曜日」の練習におけるぶつかり合いで負ったようだ。タフなセッションを繰り返すのは、大一番に勝つためである。
7月5、12日に対ウェールズ代表2連戦に臨む。代表デビューを飾った昨年は代表戦4勝7敗とあり、26歳は力を込める。
「勝ちにこだわることをチームに求めていきたいです。(目的達成には)簡単なミスをしないこと。そうでないと、僕らに流れが来ないので。体力も無限にあるわけではないので、(不注意によるエラーに)注意していきたい」
身長175センチ、体重101キロで鋭い衝突を重ねるこの人は、初戦において持ち場のHOで先発する。3日にアナウンスされた。
ぶつかり合いに焦点を当てる。
自身が最前列中央で組むスクラムでは、「ジャパンの高さで勝負する」。アシスタントコーチのオーウェン・フランクス氏の指導のもと、「強い」と見立てるウェールズのパックへ低い姿勢で対抗する。
守っては、大きな相手に2人がかりで刺さるつもりだ。昨秋のキャンペーンで大量失点したのを受け、防御に関する指導者と戦法を刷新。オブザーバーであるギャリー・ゴールド氏のもと、前に出る防御ライン内での役割を明確化しているという。
「2人でファイトする。1人(だけ)でタックルに行かない。それがキーになると思います。ウェールズ代表に勝つためにはディフェンス(が大事)。ジャパンらしく、というか、(詳細は)詳しくは言えないですけどしっかり準備できています」
約9年ぶりに復職して2シーズン目のエディー・ジョーンズは、ビッグマッチを制するのに「キシュウコウゲキ(奇襲攻撃)」を繰り出すと強調する。背番号2は頷く。
「ウェールズ代表に対して僕たちがどういうラグビーをしたいのかについては、(始動から約)2週間をかけてしっかり準備している。それが、相手から見たら奇襲攻撃になるかもしれない…というのは、一理あると思います」
初陣は福岡・ミクニワールドスタジアム北九州でキックオフ。会場のあるエリアは、2019年のワールドカップ日本大会時にウェールズ代表が活動した場所だ。
当日のチケットは完売。街には通称「レッドドラゴン」を歓迎する空気が漂う。
この潮流について、人呼んで「ブレイブブロッサムズ」の一員たる原田は興味深い視点を示す。
「そこも日本人のよさ。相手チームを讃えるムード悪くないと思います。会場全体がどっち応援するにもかかわらず、自分たちの日本ラグビーを見せて味方につけたいです」
そういえばいまから12年前の6月にも、両国は日本で2つのテストマッチを実施した。
総じてウェールズ代表は、熱波が漂う環境に難儀。日本代表は最終戦で、同カード初白星を挙げた。
その頃の所感を聞かれた原田は、周りを笑わせながらも現実的にまとめる。
「勝ったのは嬉しかったと覚えています。…『暑いからやろ』と勝手に思っていた記憶もあって! …でも、いま思えば、あれは日本にとって大事な勝利だったのかなと思います」
13年のメンバーは自信を掴み、それを向こう2年でさらに膨らませた。果たして、ワールドカップイングランド大会での歴史的3勝をもたらした。原田はこうも述べる。
「(いまも当時と)同じ感じ。ウェールズ代表に勝って、次に繋げたい」
6月1日までのリーグワンでは、所属していた東芝ブレイブルーパス東京で2連覇。わずか3日のオフを経て、16日に始まった代表の宮崎合宿へ心身を整え始めた。
それとほぼ同時期には、クラブからの退団と海外挑戦を表明している。さらに若返りの進むジャパンにあっては、ポジション内最年長となった。頼れる主軸の風情を醸す。
このリアルについても慎ましく話すのが、原田というラグビーマンである。
「あっという間に年上になってしまい難しい部分もありますけど、(23歳の江良颯、22歳の佐藤健次と)年も近いんで、一緒に成長できる関係にあると思っています」