ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチが謳う『超速ラグビー』とは、何なのだろうか。
今季初選出のサム・グリーンは、候補合宿を含む6月の活動で実感した。
「判断力、スピード、勢いを使ってプレーすることが大事です。(日本代表の目指す)試合のスピードは速い。短時間で決断する必要がある」
球の動く方向へ複数名が回り込み、それぞれが一定の枠組みのもと攻防の境界線へ走り込む。
初年度にあたる昨年と比べ、より布陣を明確化してスマートとなったよう。それでも起き上がり、位置取り、仕掛けに速さが求められるのは変わらない。
グリーンがおもに担う司令塔のSOは、複数ある選択肢からスピーディーに最適解を見出さねばならない。
6月28日、東京・秩父宮ラグビー場。JAPAN XV名義で実施のマオリ・オールブラックス戦に先発フル出場した。前半9分には攻守逆転からの展開で先制。その場面を含むいくつかのシーンで、防御を引き寄せながらのパスで味方の前進を促した。
ゲームは落とした。20-53。自陣深い位置でボール保持を試みたことが、失点の遠因となったシーンもあった。10番のグリーンは、「自分たちのエラーでうまくいかないこともありました」と反省する。
「どのチームにおいても、10番のジャージィを着ることには大きな責任が伴います。特にジャパンでは、アタックのバランスが重要になります。どのタイミングでボールを(相手守備の)裏に転がすか、またどのタイミングで自分が仕掛けて外に展開するか…。その、バランスです」
身長178センチ、体重85キロの30歳。出身地のオーストラリアでは2016年にスーパーラグビーのレッズ入りした。前年のワールドカップイングランド大会で日本代表の副将を務めた、五郎丸歩氏とともにプレーした。
同年に来日した。現豊田自動織機シャトルズ愛知へ3シーズン、在籍し、’19年より現静岡ブルーレヴズに加わった。当時ヤマハ発動機ジュビロと呼ばれた現所属先で、転機を迎える。
それまでランニングを長所に活躍も、働きの幅を広げた。
スクラムを命綱とするクラブのプランに倣い、陣地を獲り合うためのスキル、ジャッジメントを磨いたのだ。
彼我の戦力差を踏まえ、勝ち切る考えを刷新してきたのがいまのグリーンである。
「自分のキッキングゲームはよくなりました。ヤマハスタジアム(ブルーレヴズの本拠地)は風が強いからね!」
もともと2019年のワールドカップ日本大会での日本代表入りを目指したが、長期滞在による代表資格を取れなかった。シーズンオフの間の一時帰国の期間を鑑みてのことか。
その後もウィルス禍に伴う離日、ワールドラグビーの規定変更(必要な連続居住期間が3年から5年に延長)にさいなまれたが、そのレギュレーションの「連続居住」が「連続協会登録」に変わったことでグリーンは代表に入ることができた。
早朝練習が当たり前の代表キャンプの只中、こう微笑む。
「試合への準備を通し、各選手と仲良くなってきています。ここまで質の高い環境でやれているのだから、時間を有効活用したいですね」
いまは7月5日のウェールズ代表戦(福岡・ミクニワールドスタジアム北九州)を見据え、テストマッチ(代表戦)デビューを目指す。