ラグビーリパブリック

「プレッシャーを楽しもう」。日本代表初選出の江良颯、ビッグゲームで何を思ったか。

2025.06.18

準決勝、後半31分から出場した江良颯(撮影:長尾亜紀)

 激戦区に飛び込む。

 江良颯。今年6月16日に始動したラグビー日本代表へ初選出された。

 チームを率いるエディー・ジョーンズヘッドコーチが層の厚みを感じているHOの位置で、他クラブのワールドカップ経験者を差し置いてピックアップされた。

 28日に東京・秩父宮ラグビー場で「JAPAN XV」名義でおこなうマオリ・オールブラックス戦、7月5、12日の対ウェールズ代表2連戦(場所はそれぞれミクニワールドスタジアム北九州、12日=ノエビアスタジアム神戸)に向け、昨季テストマッチデビューの原田衛、昨年も選ばれた佐藤健次と競い合う。

 レベルの高いコンペティションは、所属するクボタスピアーズ船橋・東京ベイで経験済みだ。

 マルコム・マークスと定位置を争ってきた。ワールドカップ2連覇中の南アフリカ代表で76キャップ獲得という30歳と、24歳の若さでしのぎを削ってきた。

「マルコムが交替したらHOの質が落ちるということは、絶対にあってはいけない」

 こう話したのは5月23日。2季ぶり2度目の日本一を争うリーグワン1部のプレーオフ準決勝を2日後に控え、千葉県内の本拠地で汗を流した後のことだ。

 試合当日はベンチスタートで、中盤以降にマークスと入れ替わると見られていた。意気込みを問われるや宣言した。

「マルコムがしんどくなってきたところ(時間帯)で、それよりも上のHOとして出場するのが自分の役目です」

 身長170センチ、体重106キロ。マークスが身長189センチ、体重117キロであるのに比べ小柄も、瞬発力と粘り腰が光る。

 地元の大阪桐蔭高2年時には、高校日本一に輝いている。2023年度は、帝京大の主将として大学選手権3連覇を達成。スピアーズでも、帝京大在籍中の’24年2月から出番を掴んだ。卒業前の大学4年生が所定の条件を経て公式戦に出られる、アーリーエントリーという制度を用いた。

 さらに出場機会を増やした新シーズン。特に殊勲の働きを披露したのがセミファイナルだ。

 東京・秩父宮ラグビー場のピッチに投じられたのは後半31分。4季連続決勝行きを目指す埼玉パナソニックワイルドナイツから、25-24とわずか1点のみ先行していた。

 重要局面へ、「(リードを)守りに行く、戦いに行く」。35分、相手ボールのスクラムで好プッシュ。反則を誘い、味方のペナルティーゴールで28-24とスコアを広げた。

 いわば名刺代わりの一戦となりうるバトルを制すると、江良は「こういうところでスクラムという強みを出せたのは嬉しいですが、(別なシーンで)ラインアウトの(投入する)ボールが低くなったのはプレッシャーに負けたところ」。嬉しさを語るのはほどほどに、反省の弁を述べる。

 ラインアウトのスローイングは、普段から「確認は常に。それが習慣化しています」と本数を絞って個人練習をしている。それだけに、自身のエラーに厳しい。

 興味深いのは、自らが口にした「プレッシャー」という単語から、フラン・ルディケヘッドコーチにまつわるエピソードを明かしたことだ。

「試合前、フランは『プレッシャーと友達とあり続けろ』と話していた。プレッシャーを楽しもうという思いが持てました。自分のなかでしっくりきた」

 スピアーズファーストを掲げながら、栄えある代表入りを念頭に置いてきた。目標達成のため体力を磨き、ゲームが終わった後は常に防御担当のスコット・マクラウドアシスタントコーチと動きのレビューを実施。果たして今度の立場に上り詰めた。

 国際舞台で生じる「プレッシャー」とも、親しくあるつもりだ。

Exit mobile version