左腕に刀のデザインを刻む。和風のフォントで「ファカタヴァ」「兄弟」と添える。
ファカタヴァ アマト。トンガ出身で日本国籍を持つ30歳だ。一時留学した強豪国のニュージーランドでもプロ契約が期待されたなか、双子の兄であるファカタヴァ タラウ侍とともに2015年に来日。2人で大東大を経て、’19年より現所属先のリコーブラックラムズ東京でプレーしている。
タトゥは兄とお揃いだ。
「日本はホームのよう。ファンと家族を幸せにするために全てを尽くしています」
国際舞台でも活躍する。身長195センチ、体重118キロとサイズに恵まれ走りのしなやかさ、力強さに定評がある。近年は運動量でも期待される。
2023年には日本代表初選出を叶えたうえ、ワールドカップフランス大会のスコッドに入った。
大舞台を直前にして抜擢されたのは、メンバーの固定化を好んだジェイミー・ジョセフ前ヘッドコーチ体制にあって珍しい。おもにLOで先発し、決勝トーナメント進出をかけたアルゼンチン代表戦ではキックを交えた鮮やかなトライを奪っている。
昨年までに積み上げたキャップは13。もっとも12月からの国内リーグワン1部を戦うなか、シーズン終了後の代表活動参加へこう言葉を選んでいた。
「一旦オフタイムを過ごし、ラグビーを忘れてから次に進みたいです。ファミリータイムを大切にしたい。これは、すごく重要なことなのです。そして、戻ってきたら、どうなるか…といったところです」
心機一転。6月上旬、長野・菅平での候補合宿に参加した。5月から「JAPAN XV」で活動した面々と、切磋琢磨する。
日程上は「JAPAN XV」へ加われなくもなかったが、ここ数年のハードワークをエディー・ジョーンズ現ヘッドコーチに考慮されたか。話し合った末、国内シーズン終了後に約3週間のオフをもらった。
「オフをもらったことに感謝しています。私の家族のことも理解してくれていました」
選手のキャリアに応じて日程を管理するのは、世界中のコーチにとっての常識か。特に約9年ぶりに復職して2年目のジョーンズは、第1次政権の頃から海外出身選手の勤続疲労について配慮することで知られている。
ファカタヴァが菅平のグラウンドで取材を受けていると、背後からジョーンズに声をかけられた。ちょうど指揮官への謝辞を述べていたタイミングだった。笑顔で続ける。
「休日はバケーションを兼ね、神戸にいる弟(コベルコ神戸スティーラーズのソセフォ・ファカタヴァ)と一緒に大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも行きました。あとは家でリラックスを。…いまはマインドセットができています。キャンプに戻れてうれしいです」
その後はコンディション不良のため菅平から離脱したが、16日から宮崎でキャンプの正代表へ選出された。秋のキャンペーンは強豪国に大敗し続け1勝3敗も、7月の対ウェールズ代表2連戦へ前向きに挑む。
「昨年は怪我も多かったですが、今年はいい形で自分を追い込めています。一歩ずつ、段階的に準備して、ウェールズ代表戦に臨みます。桜のジャージィのために、ハードにプレーするだけです。日本代表のジャージィを着る時は毎回、エモーショナルになります。勝ちたい気持ちが増します。それは最初から変わらない」
英気を養った。全力を尽くす。戦前の猛練習にも「ラグビーがタフなのは当たり前。耐えて、頑張ります。(道のりに)ショートカットはない!」と向き合う。