ラグビーリパブリック

【コラム】リーグワン2024-25余話

2025.06.13

今季、左PRのレギュラーの座を掴んだ静岡ブルーレヴズの山下憲太(写真右/撮影:福地和男)

 ラグビーマガジンの編集部は現在、25日に発売する8月号の校了に向け、まもなく佳境を迎える。

 東芝ブレイブルーパス東京の2連覇で幕を閉じたリーグワン2024-25を、徹底的に振り返る予定だ。

 その中には、記者会見や試合後の囲み取材、練習取材などで選手やコーチから聞いた印象的なコメントをピックアップする特集もある。

 担当者の指示を受け、膨大な録音データをもう一度、再生した。
 そこには、まだ世の中に出していない選手たちの声がたくさんあった。本誌にも収まりきらなかった余話として、本コラムで届けたい。

◾️HOのままだったら今頃…。

 5月8日は静岡ブルーレヴズの本拠地、大久保グラウンドを尋ねた。
 新人賞を獲得する前のSH北村瞬太郎を、本誌の『解体心書』で取り上げるためだ。

 その取材を前に、スタッフの巧みなマネジメントのおかげで、予想以上に多くの選手に話を聞くことができたのである。

 足のケガから復帰した左PRの山下憲太は、右PRの伊藤平一郎に浦安D-Rocks戦(第17節)でのトライゾーンノックフォワードをいじられながら、報道陣のもとへ足を運んだ。

「取っていれば(リーグワンでの)ファーストトライだったのですが…。気持ちが前に出過ぎてしまいました。次はないように、気を引き締めます」

 加入4季目の今季は飛躍のシーズンだった。開幕戦から背番号1を背負い、負傷する第9節まで全試合に先発できた。

「いま全員に1番になってよかったねと言われます。HOのままだったら、たぶんチームにはいられなかったと思います」

 海星高(長崎)、法大ではFL。ブルーレヴズ入団後に、HOに転向した。
 ルースヘッドPRにコンバートしたのは昨季からだ。

「HOの時はスローイングが下手過ぎて、失敗するとそれを引きずってしまっていました。強みのタックルもできなくなりました」

 転向のきっかけは、ひょんなことから。2季前のシーズン最終戦前日におこなわれたトヨタヴェルブリッツとの練習試合に、急遽1番で出場することになったのだ。

「Bチームの1番がケガでいなくて、逆にHOは余っていた。僕はHOでは一番下だったので、1番にいってくれないかと。その試合で1番の楽しさを知り、その後の面談で自分からお願いしました」

 焦りもあった。同期のFL庄司拓馬、FB奥村翔は大学卒業後すぐにデビュー。PR郭玟慶も実質1年目から出場機会を掴んだ。

「僕と(岡﨑)航大だけが2年間、まったく試合に出られませんでした。同郷で仲も良かったので励まし合って…。それで昨シーズン、航大が先にスタメンで使ってもらえるようになった。その時に『ああ、このまま僕だけ引退か』と。そうなる未来が怖くて、本気で火がつきました」

 自分の役割がクリアになれば、武器のタックルを発揮できた。
 そのルーツを語る。

「小4から中2まではCTBだったのですが、球技センスのないことがとうとうバレて(笑)。パスが下手過ぎるのでLOに回されました。じゃあ、もうタックルしかすることないじゃん、と。極めようと思いました」

――ネジを外したような突き刺さるタックル。怖さはないですか?

「抜かれる方が怖いです。タックルの時は良い意味で何も考えていません。本能です。もし考えてしまったら、(味方のヴェティ)トゥポウやシオネ(ブナ)のランはめちゃくちゃ怖いですよ」

 その後、プレーオフには出場できなかったが、こう言葉を紡いでいた。

「今シーズンは出場した試合は全部先発で使ってもらっているので、責任も感じますし、ずっとアピールする立場として新人の気持ちでいたいと思っています」

◾️テコンドーNZチャンピオン。

 同じ日には、LOとFLを兼ねるジャスティン・サングスターにも話を聞けた。

 今季加入で198センチのキウイ。昨季苦戦したラインアウトの要と期待されたが、来日直前のNPCで負傷。左膝の後十字靱帯を断裂し、リハビリの過程でふくらはぎの肉離れも起こしていた。

 それでも、驚異の回復力でシーズン終盤に間に合う。
 6試合に先発し、好調のチームにさらなる追い風をもたらした。

「みんながすぐに自分を迎え入れてくれたので、すごく溶け込みやすかった。試合に出られたのはこの環境が良さが要因だと思っています」

 NPCではベイ・オブ・プレンティー、スーパーラグビーではハリケーンズでプレーしていた28歳は、来日の決断を問われると「自分の環境、視線を変えたかった」と答えた。

「日本は常に来たかった国でもあります。文化に興味があるし、リーグワンも毎年すごくレベルが上がっていました」

 ラグビーに限らず、視野は広く持っている。
 学業優秀。NZの登山家にちなんだ「サー・エドマンド・ヒラリー奨学金」の受賞者として、ワイカイ大の在学時には姉妹提携を結ぶアメリカのローワン大学に1学期留学した。

 2016年には「テコンドーNZ国際オープン」で優勝した異色の経歴も持つ。

「10歳で始めて10年くらい続けました。ラグビーとの両立が難しくて辞めましたが。テコンドーはしっかりと重心を下げて、早く動かないといけません。柔軟性、スピードはいまのラグビーにも繋がっているかな」

 来シーズンは開幕からタイトファイブの競争を激化させる。

◾️強豪校出身でなくとも。

 サングスターと同じLO、FLをこなす日本人に、松本光貴がいる。
 三菱重工相模原ダイナボアーズに加入して実質1シーズン目。日本ラグビー協会が主催する「ビッグマン&ファストマン(以下、B&F)キャンプ」の1期生だ。

 190センチ、100キロ。正真正銘のビッグマンである。

 体格や身体能力に優れた高校生を発掘することを目的としたこのプロジェクトは、2018年から始まった。
 これまで、八戸工出身の佐々木柚樹(現・浦安DR)や川西北陵出身の能勢涼太郎(現・近大4年)といった無名校出身者を世代別代表、あるいはリーグワンの上位クラブに送り出している。

 同キャンプを追ってきた身として、1期生に話を聞きたかった。
 それがシーズン最終戦で叶った。

 雨の日の金曜ナイター(5月9日)で、後半34分に途中出場。浦安D-Rocksを相手に5キャップ目を獲得した。

「今日はボールに触る機会も多かったので、ハードワークできたと思うのですが、ラインアウトで上手くサインを伝達できませんでした。ダイナボアーズに来て、相手のディフェンスを見てサインをチョイスしたり、タイミングをどうするかは学んできたことです。次までに改善したい」

 実は、リーグワンデビューは二度も見送られていた。第11節から2試合続けてベンチ入りも、出場機会は訪れなかった。
 その2試合で、チームは東京サンゴリアス、トヨタヴェルブリッツを連破する。

「もどかしい気持ちというか、チームが勝っても喜び切れない自分がいたのですが、次に行くしかなかった。試合を終えるたびに、次の試合にフォーカスしていました」

 第13節は直前のメンバー変更でリザーブから先発へ。後に準優勝するクボタスピアーズ船橋・東京ベイとのデビュー戦はフル出場だった。

「強みのタックルは少しずつ見せられていると思います。そういう場面をもっと増やしていきたいです」

 B&Fキャンプに声がかかったのは、明大中野八王子の2年時だ。
 誘われていなければ、「ラグビーを辞めていたかもしれない」と明かす。

「それまでトップレベルでラグビーすることを意識したことがありませんでした。でも合宿で代表クラスのコーチングを受け、トップを目指していいんだと思いました」

 高3時には飛び級でU20日本代表入り(2019年)。明大を経て、ディビジョン1のクラブへの入団を果たした。

「大学では出たり出なかったりで不完全燃焼だった中、リーグワンでプレーするチャンスをいただけました。高校は強くはなかったですが、やっていけると証明したい。いま同じ境遇にいる人たちにも、自分も活躍できると思ってもらえるように頑張りたいです」

◾️フロントローは一番仲良くあるべき。

 松本に会った2日後、同じ秩父宮ラグビー場のミックゾーン(取材対応エリア)では、ブラックラムズ東京の大内真が待機していた。

 SO、FBのアイザック・ルーカスの声を聞いている間、チームスタッフの指示で時間を潰してくれていたのだ。

 ちなみに、代表入りを期待されたルーカスはこう語っていた。
「今シーズンは(ケガの影響で出場できた)試合の数が少なかった。残念ながら代表には呼ばれていません。でも、それがラグビーです。来シーズンはしっかりとカムバックして、チームとしても個人としても良いパフォーマンスを見せたいです」

 あらためて大内真。東芝ブレイブルーパス東京から移籍して2季目を迎えた27歳だ。
 昨季は1試合のみの出場にとどまったが、今季は14試合に出場、11試合で背番号2のジャージーを着た。

「(ある日の)ミーティングで、タンバイ(マットソンHC)から『自分で(試合に出る)権利を勝ち取った』と言われたことがすごく嬉しかったんです。僕は開幕から4試合出られていなくて、正直、2番手でもない立ち位置からのスタートでした」

 序盤戦でめげなかった。今季、右隣で際立つパフォーマンスを見せたPRのパディー・ライアンが、36歳ながらハードワークを重ねる姿を砧(きぬた)グラウンドで見るにつけ、「僕も感化されました」。

「ベテランの選手がロールモデルでいてくれる。そうした助けがあったからこそ、乗り越えられました」

 個人のパフォーマンスは「パーフェクトではなかった」とするも、シーズンが深まるにつれてスクラムはチームの「武器」になった。

「もともと力を持っている選手が多かったと思います。でも、一人ひとりが無理にどうにかしようとしていた。8人でしっかり固まることができた第8節ぐらいから、手応えを感じられるようになりました。スクラムが自分たちの武器と言えることは、HOとして一番嬉しいことです。来季はそれを一発目から出せるようにもっと改善していきます」

 定期的に開催する「フロントローパーティー」は、大内が幹事を担うことが多い。
 日川高校卒業後はNZへ留学。英語でのコミュニケーションも堪能だ。

「それまでは西(和磨)さんとかがやっていて、たまたま僕がいまやっているだけです。フロントローはやっぱり仲良いですし、チームで一番仲良くあるべきだと思っています。これからも自分の役割のひとつとして続けていきます」

 個人としては、同級生で「ほぼ毎日一緒にいる」という武井日向らとのポジション争いに、再度チャレンジャーとして挑む。

◾️大変だけど充実。

 舞台は福岡、そしてD3へと移る。
 ホスト最終戦にして初めて、新規参入チームのルリーロ福岡を取材できた。

 試合はマツダスカイアクティブズ広島に12-35で敗れ、相手のD3初優勝を見届けることになったが、松尾将太郎の表情は明るかった。

「D3のトップチームにここまでできた(前半12-21)。試合を重ねるごとに、みんなが本当にタフになってきたし、シーズン序盤は個人に走るプレーが目立っていたけど、組織力もどんどん上がっています。ノンメンバーも含めた1週間の準備も良くなっている。負けはしたけど、自信になりました」

 明大4年時には大学日本一を経験した司令塔。卒業後はNTTコム、浦安D-Rocksで過ごし、今季から地元・福岡に戻ってきた。

「前の所属チームに残れないことになり、どうするかをいろいろ模索する中で、NTTで転勤できることになりました。なかなか社会人になってから試合に出る機会が少なかったので、地元に戻って自分が小さい頃に憧れたように自分のプレーを子どもたちに、そして両親に見せたいと思いました」

 福岡市内にあるNTTドコモ九州支社にはフルタイムで勤務。会社の理解もあり、勤務時間を早めている。

「6時前には起きて、8時前に出社します。練習がある日は16時半頃にあがらせてもらって、うきはに向かい、練習が終わって帰ってきたら12時を過ぎています。大変か、と聞かれたら100%、いや120%大変です(笑)。でも、会社や奥さんのサポートがあってラグビーをやらせてもらっている。言い訳はナシです」

 松尾のようにリーグワンでのプレー先を探して、ルリーロにたどり着いたメンバーは多い。
 代表を務める島川大輝さんは来るものを拒まず、開幕前には71人までスコッドは膨れ上がっていた。

「人数多いよね、とよく言われるのですが、このチームの良さは一人ひとりがチームにコミットしていることです。いろんなチームから加入していて、いろんなバックボーンを持った選手がたくさんいるけど、一人ひとりが試合に向けてどう準備するか、自分が何をしないければいけないかを考えて動いています。みんな、ラグビーが大好きで集まっていますから。ボランティアの皆さん、地域の皆さんもサポートしてくれて、応援にもたくさん来てくれてます。それがこのチームの価値です」

 2022年に誕生した発展途上のチームだ。「もう自分は若くない」という28歳は、「練習中から自分のテクニックを教えたり、話し合いながら若い選手の力になりたい」と誓った。

◾️変わらぬ地元愛。

 その試合で喜びを噛み締めたのは、スカイアクティブズの大竹智也。右PRで先発した。

「素直に嬉しいですね。これまであまりタイトルを獲るという経験はしてこなかったので」

 広島工、天理大を卒業後、地元チームへの加入を決めた。
 2016年に入団した32歳だ。

 広島では高校時代にも”タイトル”を残している。「天理に行く前に」と、地元の飲食店をまわって「お好み焼き5玉」「ラーメン替え玉15回」の大食い記録を作った。

「お店に写真が飾ってあります」

 加入当時、マツダはトップキュウシュウ所属。トップリーグのチームからも声をかけられながら帰郷することを選んでいた。

「周りからは上に行って欲しいと言われましたが、やっぱり地元が好きだったのでしょう。いまも後悔はありません」

「めちゃくちゃ大都会でもなく、大田舎でもない。ちょうどいい」広島が好きだ。

「ケガが多かったので、プロは厳しいというのもありました。マツダと中国電力さんを見ていて、どちらかにはいきたいなと。自分から声をかけさせていただいた。仕事も100%でやらせてもらっているので、すごく充実しています」

 大竹の加入以降、母校の天理大からは続々と後輩たちが加入する。
 ともに最前列でスクラムを組んだPR加藤滉紫をはじめ8人の天理大OBが在籍している。うち半分がPRだ。

「後輩が来てくれるのは嬉しいですね。ムードメーカーはたいてい天理。新人の選手が来たら、金丸(勇人)選手が歓迎の舞をします」

 スカイアクティブズはリーグワン初年度にD3降格を味わってから、2年連続の4位と成績は振るわなかった。
 今季のチームの成長に、就任1年目のダミアン・カラウナHCの存在を挙げた。男子セブンズ日本代表HC、宗像サニックスブルースHCを務めたこともある。

「みんなが誰かのために動くようになりました。バンバン(愛称)はファミリーであることを一番大事にします。これまでよりも仲良いですし、前向きになりました」

 上手くいかないと人を変えることで解決しようとしていたチームは、「何がいけなかったかをちゃんと深掘りするようになりました」。例えばスクラムでは、映像を見ながら改善点を指摘し合えるようになった。

「いまは自分が何をすべきか、役割が明確です」

 日本製鉄釜石シーウェイブスとの入替戦は、2戦2敗に終わった。
 来季こそ、の思いは強い。

 最後に。ブラックラムズのCTB、池田悠希の小ネタを。
 グラウンドでは頼りになる男も(今季全18試合に先発出場)、その場を離れれば天然キャラを爆発させる。

 昨季の代表活動中に、SNSでのプロモーション用に撮影された中楠一期との対談では、トリートメントを流し忘れてテカテカの髪のまま後輩の家に向かう「抜けてる」エピソードを披露。今シーズンに起こった”事件”も聞いてみた。

「ブルーレヴズとの試合は前泊だったのですが、移動はスーツなのに帰りにスラックスをホテルに置き忘れてしまって…。短パンで帰りました(笑)。ジャケットに短パンはまずいと思って、半袖短パンで。気温が高めでよかったです。(チームの反応は…)池田がまたやったかくらいの感じでした」

 来シーズンも、いい話が聞けますように。

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