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【連載】プロクラブのすすめ㉕ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] クラブに多少の犠牲があっても、全体が最適かどうかが大事。

2025.06.11

©JRLO

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 25回目となる今回は、今季をさまざまな角度から振り返り、話題の「カテゴリ変更」などを語ってもらった(5月30日)。

◆過去の連載記事はこちら

――4シーズン目が終わりました。

 3年連続の8位からレギュラーシーズンで4位まで上がってきて、ここからという状況だったので、もちろん準々決勝で負けてしまったことは選手、チームスタッフをはじめ、事業スタッフも、ファンの皆さんもショックは大きかったと思います。

 ただ、これは結果論なのですが、仮に勝ち進んで決勝や準決勝で負けていたら、おそらく『頑張ったね』『よくやったね』と言われていたと思うんです。
 なので、そう思われて適度な満足感で終わるのではなく、自分たちの想定外のところで終わってしまったという大きな悔しさが残ったシーズンとなることのほうが、来季のエネルギーに絶対になります。

 来シーズンは絶対に優勝する、という声は選手たちとスポンサー企業への挨拶回りを通して聞こえてきます。
 われわれ事業サイドも、優勝した時には何をすべきかをいろいろと想定し計画することができたので、来季に向けた良い学習ができた、準備ができたとポジティブに捉えています。

 先日の発表の通り、来季のスコッドは主力はほぼ変わりませんし、チームスタッフの体制もおおむね継続していきます。
 今季つくった土台、ここまで伸びてきた実績、そして悔しさをもって、来季はプレーオフ出場が目標ではなく、日本一になることを明確な目標として掲げます。

――事業面も振り返ってください。

 毎年発表している項目ではほぼすべて右肩上がりだったのですが、今季は平均観客数、チケット売り上げが前年比でそれぞれ99%、98%で横ばいとなってしまいました。

 試合数が増えて総観客数は増えたけど平均数は伸び悩んでしまった。ただ、リーグワンD1全体では-11%と落ち込んでいるんです。ワールドカップイヤーも終わり、その反動がある中では、われわれは耐えたという見方もできます。

 ホストゲーム9試合の内訳を見てもポジティブなことがあって、昨季は開幕戦と最終戦に1万人超えで、シーズン中盤は大きく落ち込んだ中での平均7600人でしたが、今年は中だるみがなく、押し並べて7000人前後の観客を入れることができました。
 コンスタントに集客ができるようになってきたことは評価できます。

――リーグ全体の課題ではありますが、シーズン中盤に大きな山を持ってくるのが難しい印象です。

 われわれもシーズン途中で1万人超の試合を一度は設けたかったのですが、なかなかうまくいきませんでした。
 成績が低迷していた頃は、人気選手や代表選手がいる対戦カードを狙ったり、過去の対戦成績が良い相手との試合に集客を集中させるなど、いろいろと考えていたのですが、今季は成績が上がり、ホームでは8勝1敗でした。本来であれば、もっとその状況を生かして集客を増やさなければいけない状況だったと思います。

――チケットセールス担当とは、来季に向けた改善索を模索している。

 いま議論しているのは、もう一度『集客』に会社のリソースを集中させていこうということです。
 例えば地域貢献のイベントを、集客やチケットに結びつけるためにどうするか。いままではチームのPRもできればと考えていましたが、さらに集客まで繋げて考えていくということです。

 地域連携を担っているメンバーをマーケティングやチケットセールスの方にも関わってもらうような組織体制に変えていこうと思っていますし、他の部署の人たちも集客をちゃんと意識していくような取り組みも考えています。
 スポンサーを増やすだけでなく、スポンサーの社員の方にどれだけ多く試合に来てもらうか。ファンクラブの会員になってもらうだけでなく、会員になってからより多く足を運んでもらうにはどうするか。その先の目的まで考えようと。

――一方で以前も触れましたが、スポンサーは成果が出ました。

 営業スタッフ4人という体制で200社を超えましたから、1人当たり50社以上担当している計算です。かなりの社数だと思います。

 ヤマハ発動機を除いたスポンサー売り上げも4億を超えて、4億3000万程度まで来ました。昨季は3億5000万ぐらいだったので、大きく伸びました。

 ヤマハ発動機を除いた全体の売り上げでいえば、7億2000万ぐらいまで来ました。おそらくリーグワンの中でもかなり高い方だと思います。

 この数字を早く10億にしたいです。1、2年のうちに実現したいですし、チームの戦績も上昇してきた中では成績をお金に変えるという意味で達成しないといけない状況になってくると思います。

――売り上げ10億円の目標を達成できた時に、実現したいことはありますか。

 以前から話している新しい練習施設を作りたいですし、選手の報酬原資として拡充していかなければいけないとも思っています。

 選手の報酬原資が多い方が当然、強いチームになるし、強いチームになっていくと、それだけ評価される選手が増えて、金額が上がっていきます。

 強くなった時にお金がないから良い選手を放出してしまうということは他競技のリーグでもよくある話ですが、われわれとしては強くなった時にちゃんとその選手を適正に評価できる予算組みをしていきたい。
 常に強く、優勝争いができるチームになっていくことが理想的ですよね。

――選手の人件費はやはり上がっていますか。

 上がっていく傾向にあると思います。どのカテゴリが、ということよりも全体的にです。
 カテゴリCはもちろん、希少性の高いカテゴリAの外国籍の選手の評価も高まるのは自然な流れです。

 2026-27シーズンからカテゴリは細分化されますが、カテゴリAの海外出身選手が減ったとしても、今度は優秀な日本人選手の取り合いになるので人件費の削減にはあまり繋がらないと思います。

 本来必要なのは、サラリーキャップの議論だと思います。
 サラリーキャップを設定するべきという声は常にリーグの中にもあるのですが、なかなか踏み切れていないのが現状です。

 戦力均衡や健全な経営を実現することが重要なのですが、当然、選手の権利とのバランスも必要です。
 報酬金額の上限額をどこに設定するのか、いまのビジネスの実態や各チームの売上状況を踏まえて妥当な数値を設定しないといけません。なので、時間のかかるプロセスではあるんです。

 海外では、サラリーキャップの設定においては必ずリーグと選手会が労使交渉をします。
 リーグ全体がこれだけ儲かっているのであれば、これぐらいのキャップにしようと。選手たちも当然ないものをくれとは言えないわけですから。

 NFL(北米プロアメフトリーグ)では5~10年に一度交渉がおこなわれます。こういう売上や利益になったらキャップ(上限額)を上げる、一方でコロナ禍のような非常事態になったら下げるといった取り決めをするんです。

――カテゴリ変更の影響もあるのか、今季終了後に各クラブから退団する選手が15人前後と多いです。

 他のチームがどういう意図で判断しているのかは分かりませんのでなんとも言えません。引退する選手もいれば、移籍する選手もいるんだと思います。
 ブルーレヴズでは選手ロスターの総数を踏まえた上で、選手編成の考え方や選手の退団、移籍の意向を汲み取りながら判断をしていきます。ただ、われわれはヤマハ発動機の社員である選手が多いので他のチームに比べると退団選手数は少ないほうだと感じています。

 実は今シーズンから社員の選手であってもプロ選手と同じようにラグビーの評価をもって報酬が変動する仕組みを導入しました。
 金額や詳細は公表できませんが、日本代表に選ばれたり、一定の試合数や出場時間を得た選手には月額の手当としてそれなりの幅を設けて報酬を加算することにしたんです。

 社員の選手には、本来は会社の給与テーブル以上の報酬は払えません。なので、その基本給に加えて、静岡ブルーレヴズ株式会社が全額を負担する形で社員選手にもラグビーの評価による手当を支払うことにしました。
 プロラグビークラブとしては、社員であってもラグビーの実績や実力で評価したいと思っていましたので。

 もちろん、プロ契約したいという選手がいても構わないのですが、いろんな選択肢を設けてあげたいと思っています。
 プロというリスクを取らずともラグビーにチャレンジができることも有効な選択肢の一つだと思っています。その影響かは分かりませんが、このオフシーズンはプロ転向を希望する選手は一人もいませんでした。

 会社としても全員がプロ契約になるよりも費用は抑えられるので、選手とクラブがウィンウィンの関係になっていればベストです。
 こう言うとケチっているのではないかと見られるのですが、われわれとしては選手を適正に評価したいですし、とはいえ報酬を増やすためにはビジネスで稼ぐことが大前提になる。選手の評価とビジネスの成果を踏まえてバランスを取りながらも、しっかりチームの成長に応えられるように努力し続けます。

――ただ、カテゴリ変更によって2シーズン後にはブルーレヴズも岐路に立たされそうです。今季のラインナップを見ても、カテゴリA-2に該当する選手が多かった。

 このカテゴリ変更の議論は、リーグの会議で議論する前提においては、結局各クラブの「立場論」なんです。正直いまのチーム編成がどうなっているかによって、各クラブの意見は異なります。

 僕もクラブの立場に立てば、今の状況では日本で頑張っている外国人選手には酷ではないかと思いますけど、数年前までは日本人選手が多く先発していたわけで、当時はカテゴリAの外国人選手を優遇し過ぎなのではと思っていました。

 だから、A-1の例外措置となる日本代表キャップ30という設定も、30に到達しそうな選手を抱えているクラブはそれで良いと言いますし、そういう選手がいないクラブはハードルが高いという意見にどうしてもなります。そもそも日本代表選手がいないクラブではそのような例外措置すらも不要だという意見になると思います。

 このキャップ数の優遇に対して「リスペクトが足りない」という意見も散見しますが、それは少し違うかなと思います。キャップ30を満たさなくても、そうした実力のある選手はA-2としてプレーする機会が与えられる可能性が高いと思うからです。
 ルール改定の「目的」からすれば本来、例外措置は不要だと思うので、優遇するのであればクラブからしてハードルを高くするというところに落ち着いたんだと思います。

 国籍についても、代表に選ばれるかどうかは国籍ではなく在籍年数です。他競技では違和感があるかもしれませんが、ラグビーにおいてはワールドラグビーの規定に則ったに過ぎないわけです。

 おそらく今回危惧したのは、日本人の大学エリート選手たちのリーグワンへの門戸が狭まっているという現象だと思います。
 日本人選手にもしっかり稼げる状況をつくる。エリート選手やその予備軍のキャリアパスを示してあげるための制度変更だと思います。

 ちなみに、ラグビー人気の拡大についてはこのカテゴリの議論はまったく関係ないと思っています。

 今回の議論については、リーグの分科会や全体会議で丁寧に議論してきた印象です。リーグが一方的に進めていたということはなく、クラブの意見やいろんな視点を汲みながら進めていました。

――それでは今回の変更については、おおむね賛成している。

 そうですね。日本人選手を育成するというのはこのクラブが昔からこだわっていたことですから。ただ、やはりカテゴリAで現状頑張っている外国人選手のことを思うと心は痛いです。

 それでも、先ほど話したようにこれは立場論です。クラブの状態や状況によって、意見は変わってしまいます。

 だから、日本代表をどう強化していくかという本質的な議論や今回のようなカテゴリの議論は、クラブの意見を聞き過ぎるよりも日本協会がいろんなことを多面的に考えて、一長一短ある施策の中で、日本のラグビーにとっていま何が一番ベターか、ベストではないけどベターかを考え続けないといけないと思います。

 クラブの意見を汲むのであれば、われわれは立場を越えてどうあるべきかを考えないといけない。もしどこかで自分も意見が変わっていたら、このコラムで指摘してください(笑)。

 われわれのクラブに多少の犠牲があったとしても、全体が最適かどうかを見極める。
 ラグビーの人気やリーグワンの注目度が上がったり、価値のある試合が増えることが一番ですから。

 ラグビーやクラブの価値を高めるために、われわれは独立分社化しました。地域に根差し、そこで徹底的にファンを集めて、強いチームつくっていく。
 いかなるルールのもとでも、クラブがすべきことはそれに尽きます。

 今回Bリーグで(かつて山谷氏が社長を務めた)宇都宮ブレックスが優勝したのを見て、やはりウィニングカルチャーは選手やコーチだけで作るものではなく、ファンや地域と共に作るものだと実感しました。

 ファンや地域がこのクラブを勝たせたいという熱や支援ですね。
 スポンサー企業が日本一に向けてサポートする、ファンは全力で応援する、スタジアムでは声を出すという状況。本当の意味でのウィニングカルチャーを作りたいと思いました。

 いまブルーレヴズはその過程にいます。ゴー・ゴー・レヴズコールをはじめ、ホストゲームの雰囲気はそれに近づいてきていると思いますし、プレーオフでリーグ戦上位クラブのホスト開催になったことを前提にした理想を話すと、来季はシード権を獲得して準決勝を超満員のヤマハスタジアムでものすごい圧のゴー・ゴー・レヴズコールで勝って国立に行きたいです。

 ラグビーというコンテンツの価値を徹底的に高めて、地域の人たちを感動させるところまでは絶対にやり遂げたいです。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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