ヴィリアミ・タヒトゥアは杭を打つ。
静岡ブルーレヴズでインサイドCTBへ入り、ある時は接点の近く、またある時は複層的な攻撃ラインの真ん中でパスを持つ。球をもらえば待ち構える防御へ突っ込む。前に出る。
「ゲームプランを含め、いい方向に進んでいます。選手同士のコネクションも強くなっている」
本人が好感触を語る通り、今季のチームは好調だ。加盟するジャパンラグビーリーグワンの1部において、5月中旬まで約5カ月あったレギュラーシーズンを12チーム中4位で終えた。現行リーグで4季目にして初めて、プレーオフへ行ける。
17日、東大阪市花園ラグビー場で、準々決勝をおこなう。ぶつかるのは同5位のコベルコ神戸スティーラーズだ。対する共同主将でFBの李承信は、ブルーレヴズのキーマンに司令塔団およびタヒトゥアの名を挙げる。
身長183センチ、体重111キロの33歳を、攻めの起点として警戒する。
「ボールキャリーが多く、ひとりでモメンタム(勢い)を生める」
当の本人は「もちろん自分がダイレクトに行くこともありますが、いつもクラッシュするのとは違う。違うスキルを加えることで、ゲームが変わる」。元日本代表チームディレクターの藤井雄一郎監督が就任して2シーズン目。陣地を問わずパスを多用し、大きく球を動かすスタイルを楽しむ。
相手の裏をかいたのは4月12日だ。
東京・秩父宮ラグビー場で、前年度王者の東芝ブレイブルーパスとの第15節に先発した。
前半9分。敵陣中盤の右中間でボールを得たら、迫る防御の右奥へキックパスを繰り出す。無人のスペースに味方WTBのマロ・ツイタマを走らせ、先制トライを導いた。
この日は56-26で同カード2連勝を成し遂げ、プレーオフ行きの切符を手にした。今年度のブルーレヴズは、前回のファイナリスト2チームに全勝した唯一の集団である。
前身のヤマハ発動機ジュビロに2016年度から在籍のタヒトゥアは、頂上決戦においても身上の「オールアウト。出し切り」の態度を貫くだろう。
「若い選手を見守りながら、毎週末の試合でベストを出せる選手であり続けたい。ハードにできる限りプレーし、できたらまだやる。できなければそこで終わりです」
ニュージーランドはオークランドの生まれだが、トンガの血を受け継いでいる。「家族は皆、そうです」。自身も11歳から13歳まで、親の職業のためルーツ国で過ごした。
「父はトンガの人に家を作って欲しいと言われていました。屋内の壁の裏にねじを埋め込むような仕事をしていたのです。私にはスクールホリデーはありませんでした。休日は山盛りのセメントを塗っていました!」
やがてラグビーでプロを志した。出身国のヒーローと遇される、オールブラックスことニュージーランド代表を目指した。しかし、いざトンガ代表から声がかかればそちらも光栄に思った。同代表で9キャップ(代表戦出場数)を掴んだ。
来日は偶然だった。加入に先立ち、ニュージーランドで合宿していたジュビロのトレーニングマッチへ出場。当時所属していたシアレ・ピウタウに紹介されたのが縁だ。加わって早々に主軸となり、ちょうど進歩していた日本のラグビーシーンでキャリアを重ねる。
「日本ではゲームスピードに驚かされました。素晴らしい外国人選手がたくさん集まっていて、いつも異なる種類の試合をしている感じです。最近は(スクラム最前列の)HOも足が速く、(衝突の多い)FLもBK並みのスキルを持っています。毎年、毎年、学んでいます」
苦労も知った。入部からの3年間はずっと4強入りも、その後は中位に落ち込んだ。
その間は選手、コーチとして在籍のモセ・トゥイアリイを指標に踏ん張ってきた。ニュージーランド代表9キャップのFW第3列が「コミュニケーションを取り、チームの絆をタイトにしてくれた」とタヒトゥアは思い返す。
時を経て、いま再び日本一に近づく。しみじみと語る。
「苦しい時期に成長し、自分たちがいるべきところに来られたことが本当に嬉しい」
ベテランになった。シニアプレーヤーとして取るべき態度については、「普段は他のリーダーが引っ張る。落球などが続いた時だけ、私が何かを伝える。もともと、自分は喋るタイプではありません。行動の選手です」。年輪を増やしてなお、「行動」の質を保つ。
トレーニングを終えると、氷入りの水風呂で筋肉をケアする。アイスバスは極端に冷たいためもともと「あまり好きではない」のだが、「子どもの頃に海やプールで遊んでいた」のを思い出して浸かる。フィールドでのよい「行動」のためだ。
「メンタルの持ち方も大切です。ずっと同じパフォーマンスができるよう、意識する。身体が疲れてきた時に自分で『疲れている』と思ってしまったら、本当に疲れてしまう。常に『身体は大丈夫だ』とポジティブに考えていたら、勝手に身体がそのように反応してくれます」
次戦でも12番をつけ定位置を担う。これまでおそらく何十回、何百回とファンに披露してきた突進を今度も繰り出す。