埼玉パナソニックワイルドナイツは、揺らめきながらも勝ち切りそうだった。
5月3日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン第17節の首位攻防戦へ、戦前12チーム中1位で臨んだ。
前半16分にタックルエラー、続く32分にはライン形成の遅れと対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイの連携との合わせ技でトライラインを割られるも、14-14で迎えた35分頃に中盤でミスボールを拾うや計19フェーズも継続。39分、19-14と勝ち越した。
先発HOとして序盤のスクラムを優勢に保った坂手淳史主将は、長時間のアタックを支えた走者、サポート役の動作を讃えた。
「しっかり我慢ができました。そこに関しては、いい部分ができたのではないかと」
看板の守備で綻びを突かれながらも、要所で簡潔に点を取る。リーグワン発足からずっと決勝に出ている初代王者は、後半もそのようにゲームを進めた。
後半20分までの間、自陣ゴール前および同22メートル線付近で何度もピンチをしのいだ。
さらに22-24と2点差を追う後半35分には、再び攻守逆転からの長いボール保持でスコアした。前半終わりかけにあった1本とよく似た流れに映った。
29-24とした終盤のシーンでは、エセイ・ハアンガナ、オッキー・バーナードといった途中出場のLOが簡潔に推進。じりじり前に出て、相撲でいう寄り切りの形を2度も繰り出したわけだ。
対するSHの藤原忍はこう吐露した。
「タフな時こそ2人でタックルして、ダメージを与え、(テンポを)スローにさせないと。(この午後の当該シーンでは)乗られて、乗られて…だったので(少しずつ前に出られた)」
ただし、最後に15,000人超のファンを沸かせたのはそのスピアーズだった。
やや攻め急いだワイルドナイツが落球。スピアーズが自陣深い位置から逆襲できた。
この日活躍したCTBのリカス・プレトリアスが駆け上がり、リザーブ発進だったWTBの山田響のリーグワン初トライをお膳立てした。
29-29。同点にした。
ワイルドナイツの左PRである稲垣啓太は、最終局面の動きを「(リードしながらノーサイドに近づいていた)あの時間帯。(無理に)フィニッシュまで行く必要は、なかったんです」と述懐する。
残り1分半、楕円の宝物を護ってラストの笛を待てばよかったと言いたげである。
5月中旬から両軍が参戦のプレーオフを見据え、ノックアウトステージで持つべきモラルを再確認するつもりだ。
本来のお家芸たる守りの改善へは、終盤に好スティールを披露のCTBのダミアン・デアレンデが提言する。タックルの失策が起きるわけを、組織的な観点で捉えていた。
「ひとりが前に出て、(隣の)ひとりが取り残されているというところがあり、そこに溝が生まれ、『漏れて』しまっている。個々で行くのではなく、(組織で)繋がり続けることが大事」
最後に猛追のスピアーズにおいても、藤原は「きょうの反省は活かさないと。突き詰めて、一発勝負へ…。僕自身、ブレイクダウン(接点で)発信を。きょうは3~4くらいはボールをポロポロとしていたので」。勝負どころにおけるキックチャージや変幻自在のさばきで光りながら、失点や逸機を招いた失策と向き合っていた。
フィールド上のインタビューで、坂手は「見ている方々は楽しんでもらえたんじゃないか」と白い歯をのぞかせた。
その後の公式会見では、当事者のありようをこう言語化した。
「(次節を含めたレギュラーシーズンの)18試合を戦って、身体的にも精神的にも疲れているなか、チームとしてどう成長するかが鍵です。停滞は、退化(の始まり)です。成長にフォーカスできれば欲しいものに近づくし、それができないチームは終わっていく」
観衆を喜ばせた好試合を誇らないのが本心だ。