4月18日、コベルコ神戸スティーラーズのアタアタ・モエアキオラは大阪・関西万博にいた。
母国であるトンガの「ナショナルデー」の式典にサプライズゲストとして参加するためだ。
シオサイア・フィフィタ、フェツアニ・ラウタイミ(以上トヨタV)、ハラトア・ヴァイレア(S東京ベイ)とともに、腰に巻く伝統衣装「タオバラ」を着て壇上に上がった。
「日本でトンガのイベントが開かれることはあまりないし、自分がトンガを代表して何かをすることもない。そういう機会をもらえて嬉しかったです」
昨年も母国との繋がりをまた深く感じていた。
昨季は開幕直前のプレシーズンマッチで左膝の前十字靭帯を断裂。シーズンを全休した。
「ケガする前のコンディションが結構良かった分、ショックでした」
そんなアタ(愛称)に手を差し伸べたのが、チームメイトや家族、そしてアイランダーの仲間たちだった。
「自分がひとりになって落ち込まないように、一緒に過ごしてくれました。僕の家でトンガから持って来たカバを飲んだりして。自分のメンタルを助けてくれた」
走れるようになったのはシーズン終盤の4月。そこからの日々は「大変でした」。
すぐに仲間たちはオフに入り、ヘッドアスレティックパフォーマンスコーチを担うフィル・ヒーリーとのマンツーマントレーニングが始まった。
「僕にシーズンオフはなかったです(笑)。しかも夏で暑くて…」
それでも、デイブ・レニーHCが就任した昨季からは、「バックスリーは相当走れないと使ってもらえない」と自覚し、走り続けた。
ついには持久力を測るブロンコテストでベスト記録を更新。7月からは州代表選手権(NPC)にニュージーランドに渡った。
マナワツでシーズン最後まで在籍し、試合の感覚を取り戻した。
今季は開幕からメンバー入りし、11試合に出場、10試合に先発してリーグ5位の10トライを挙げている。
ラインブレイク20回はリーグ4位の記録だ。
それでも、自身のパフォーマンスには納得していない。「パフォーマンスに波がある」と課題を口にする。
「シーズンの最初の方は良かったけど、いま少し下がってきたのでもう一度上げたい。タックルミスをなくさないと、チームに迷惑がかかる。アタックでももっとハードワークして、もっと走らないといけない。まだまだ良くできると思います」
バックスリーは調子を落とせば、すぐにリザーブへと回ったり、メンバーから外れるほど、熾烈な争いが繰り広げられている。
昨季ブレイクの松永貫汰をはじめ、FBも担う山下楽平、昨夏日本代表デビューを果たした濱野隼大、今季加入のイノケ・ブルア、船曳涼太ら実力者がひしめく。
シーズン途中からは、パリ五輪代表の植田和磨もアーリーエントリーで参戦。すでに出場機会を得ている。
「正直、今年が一番プレッシャーがかかっています。そのおかげで良いプレーもできる。良い選手がたくさんいるからあまり気は抜けない」
過去にはSOやCTBを主戦場とし、NO8の経験も豊富。「他のポジションでも試合に出られるならやる」と話すも、「いまはWTBをやりたい」。
トライを取るのが楽しいと相好を崩す。
2019年のワールドカップは、試合にこそ出られなかったが日本代表として戦った。
同大会以降は代表活動から離れているが、昨年、思いが再燃した。
「2019年はすごく良い経験になったけど、やっぱり試合に出られない悔しさもあった。W杯を終えてからもうしんどい思いをしたくなくて、代表になろうとは考えてなかった。でも去年、息子が生まれた。もう1回、息子のためにも早く復帰したいと思いました。もう一度、選ばれたら頑張りたい」
名前はタラウタラノア・コウベ・モエアキオラ・ジュニア。
ミドルネームに神戸を入れた。
まずは、愛するチームを高みに導く。