どこまで良い人なのだろう。
リコーブラックラムズ東京のPR、パディー・ライアン。
オーストラリア代表キャップ3を持つ36歳が、チーム内の「なかなかない状況」について話す。
ブラックラムズは今季、新たにTJ・ペレナラとリアム・ギルの2人を迎え、海外の代表キャッパーを4人在籍させている。
この4人が組み分けされる「カテゴリC」は、リーグの規定で3人までしかチーム登録をおこなえない。つまり、選ばれた一人は負傷などでの入れ替えがない限り、試合には出られないのだ。
「こういう時に必要なのは、チームファーストに尽きると思います。TJとリアムが起用されることは理解していましたので、ネイサン(ヒューズ)と僕がいかにチームファーストで動けるか、でした。ネイサンにとっては残念でしたがプロップにケガ人が多く、僕がひとまず試合に出ることになりました。これは能力の差ではありません」
「ネイサンが凄かったのは、そんな状況でもチームファーストができたことだと思います。これがチームのスタンダードだと示すことができました。彼はそこからケガをしてしまいましたが、浦安D-Rocksでラグビーをするチャンスを得たこと(期限付き移籍/4月17日発表)は僕にとってもすごくハッピーなことでした」
パディー自身はその起用に応えるかのように、存在感は日を追うごとに増している。
他チームの選手からリーグワンで一番強いと評されるスクラムで前進。ペナルティを獲得するのだ。
もっとも、本人は「(ブラックラムズに在籍する)過去2シーズンとパフォーマンスは変わっていない。チームのパフォーマンスが良い時は、個人のパフォーマンスも良く見えるということでしょう」と謙遜する。
そして、仲間を褒める。
「スクラムは去年も一昨年も良かったです。ただ、今シーズンはFWにステップアップした選手がいます。その一人は(PR津村)大志。(HO大内)真もチャンスを掴んでいます。あとはフォクシー(LOハリソン・フォックス)。彼の後ろの押しはとても助かっています」
チーム内の繋がりが強くなっていることも、スクラムに良い影響を与えているという。
HOの大内が主体となって「フロントローパーティー」がたびたび企画される。直近では横浜キヤノンイーグルスを破った3月15日の夜に開かれた。
「僕の友人が営む有楽町の居酒屋『アンディー・シン』(新日の基)でやりました。カニがめちゃくちゃ美味しくて、ベストなシーフードを出してくれるお店です。
そこでしっかりとお互いのことを知ることで、お互いのためにハードに練習できます。うちのチームには良い男たちが揃っていますよ」
今年は生まれたばかりの息子の世話で難しくなったが、昨年までに習得した日本語でコミュニケーションを図る。
チームの外国人選手に日本語を教える「マキコ先生」の指導もあり、日本語能力試験のN4に合格した。
このバイウィークには、来日した友人を連れて、妻が「旅行会社並み」のリサーチで見つけた岐阜の郡上八幡へ。店やホテルの予約はパディーが担った。
「満開の桜を見ることができました。完璧なタイミングだったと思います」
粘って個人のスクラムの強さを問えば、「何事もそうですが、たくさんの練習が必要でした」という。
宗像サニックスブルースへの加入で来日した2018年からも努力は続いた。
「僕はプロになって16〜17年目ですが、日本に初めて来た時は多くのことを変えなければいけませんでした。日本の低いスクラムに適応するために、コアを強化する必要があった。ピラティスやヨガを採り入れました。
なかなか僕みたいな大きい選手がそんな教室には普通通わないですよね。オフシーズンにオーストラリアに帰った際は奥さんと一緒に通いましたが、クラスに男は僕しかいなかった。それにあまりにも酷い(上手にできなかった)ので、みんなから笑われていました」
ケガを予防するためのエクササイズ「プリハブ」も欠かさずおこなう。
それが選手としての長持ちに繋がる。
昨季は入替戦の2戦目を終えると、ケガ人の影響で急遽ワラターズに復帰、翌週のスーパーラグビーの試合に背番号1で先発していた。
「プリハブはどこかの部位が弱くならないように強化するためのものです。足が遅くなり過ぎないようにも気をつけています(笑)。松橋さん(周平)と僕は結構ジムにいる時間が長くて、年を取ってくるとそれが必要になってくる。僕たちはお互いのことを『頑張り屋さん』と言っています」
インタビューの最後には、これからのキャリアについても言及。包み隠さず話してくれた。
「近い未来はプレイングコーチになりたいと思っています。日本が好きなので、もしリコーでのキャリアが終われば別のチームに行くかもしれない。いろいろと話をしている最中です。日本に残らない決断をした時は、シドニーにある僕の古巣のクラブチームでプレーをしたい。まだまだラグビーをプレーすることが好きなのです。
最近、どうしてラグビーをプレーすることが好きなのかよく考えているのですが、結局わからずじまい。オーストラリアではいろんなスポーツをやってきましたが、やっぱり一番好きだったのがラグビーでした。走ることもコンタクトすることも好きで、いろんな体格の人ができるスポーツです。みんなが役割を持つことができる美しいスポーツだと思っています」