ラグビーリパブリック

生みの苦しみ。大阪桐蔭の春。

2025.04.25

準々決勝後のシーン。右から2人目がCTB手崎颯志キャプテン(撮影:福島宏治)



 自宅の近くに複数の大学がある。4月に入り、通学する学生たちで駅前が賑わうようになった。新入生だろう初々しい若者の姿を見るたびに、新年度が始まったことを実感する。

 少し前の話になるが、3月末には熊谷で全国高校選抜大会が開催された。高校ラグビーはひと足先に新シーズンがスタートしており、このセンバツを通して、2025年度の全国的な力関係が浮かび上がってきた。

 代が替わり新チームが発足して間もないこの時期は、どの学校も発展途上で未完成な部分が多い。花園に出場したチームはなおさらで、各校が懸命に試行錯誤を繰り返している様子が随所にうかがえた。フレッシュな顔ぶれでの戦いぶりを見ながら秋冬の成長した姿に思いを巡らせるのは、この時期ならではの楽しみだ。

 前回大会王者の大阪桐蔭は、昨冬の花園で優勝候補筆頭に推されたチームからキャプテンのCTB名取凛之輔(現早大)やSO上田倭楓(現帝京大)ら下級生時代から主軸を担ってきた選手が多数卒業し、メンバーが大幅に入れ替わった。それでも激戦の近畿大会を制したのは確かな環境と伝統の証だ。しかし、今大会では惜しくも準々決勝で東福岡に17-24で敗れ、連覇には届かなかった。

 17-17で迎えた後半の最終盤、トライ数で上回り残り時間を使いきれば次戦に進めるという有利な状況だったが、ラックでターンオーバーを許し、そこから勝ち越しトライを奪われた。痛恨の敗戦だった。

 試合後、悔しくてたまらないはずの綾部正史監督が丁寧に取材に応じてくれた。そのやりとりの中で、次のフレーズが印象に残った。

「僕らコーチ陣も、去年の3年生のイメージを持ってこの子らに接してしまう部分があって。それをやってはダメだと、わかっているんですけど」

 みずからに言い聞かせるような口調に、痛恨の色がにじんだ。指導者として選手たちを勝利に導けなかった自責と無念。そこに、高校ラグビーならではの難しさと、それゆえの醍醐味が垣間見えた気がした。

 卒業と入学で毎年メンバーの3分の1が入れ替わる高校ラグビー部において、最上級生の存在は大きい。まして卒業したのがこれでもかと実力者のそろっていた代なら、感じるギャップが大きくなるのは当然だろう。つい「アイツらならこれくらいは…」といいたくなる気持ちはよくわかる。

 一方で、シーズンを通してさまざまな経験を積み成熟したチームと、立ち上げから3か月弱しか経っていないチームを比較すること自体に無理があるのも事実だ。

 むろん綾部監督もそれは重々承知しているはずだ。それでも知らず知らずのうちに、「去年のメンバーなら…」と比べてしまう自分がいる。その自覚が、敗戦の悔恨をいっそう深くさせる。

 ただ。代が替わるということは、前年にはなかった新しい持ち味が生まれるということでもある。そしてこの時期に直面した蹉跌と苦悩は、この先飛躍を遂げるためのジャンピングボードになり得る。

 事実、大阪桐蔭の選手たちの顔ぶれを見れば、今季も大きなポテンシャルを秘めているのは明らかだ。

 ひと際目を引くのは、LO泊晴理とLO酒井結仁のツインタワー。それぞれ192センチと197センチのサイズは大学を飛び越えてリーグワン級だ。迷いなく突き刺さるタックルでチームを牽引するCTB手崎颯キャプテン、抜群のセンスを誇るFB吉川大惺など、BKにも魅力ある逸材が並ぶ。

 東福岡戦の後、手崎キャプテンはプレーそのままのまっすぐな口調でいった。

「若いメンバーだからこそ、若いなりに全力でこだわって、一からチームづくりをしていきたいと思っていました。だから春にこういういい経験ができたのは大きいと思います。やれるという手応えはつかめています」

 綾部監督もセンバツを通して得た感触をこう表現する。

「正直、スタートの時点で比べれば去年とはだいぶ違いました。でも、その段階でもこういう戦いをできるのは、彼らがいろんな可能性を持っているということだと思う。去年にはない強みを、なんとか引き出していきたいですね」

 貴重な経験を積んだ大阪桐蔭の次なる挑戦の場は、4月28日に開幕する高校生世代の世界的祭典、サニックス ワールドラグビーユース交流大会だ。日本にはないスタイルを持つ海外チームとの対戦、勝ち負けに関わらず8日間で5試合を戦える環境は、可能性を秘めた選手たちの潜在力をさらに引き出してくれるだろう。

 グローバルアリーナでの日々を経て、チームがどのように成長を遂げるのか。楽しみだ。

サニックス ワールドラグビーユース交流大会2025の詳細はこちら

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