女子日本代表のシーズンMVPがあるなら昨季はこの人で決まりだ。
吉村乙華。
174センチ、83キロのLOで全10試合に先発。コンタクト局面に何度も顔を出し、攻守に前に出た。
自身2度目のW杯を控え、手応えを口にする。
「(3試合に途中出場の)前回大会は自分が選ばれるレベルにないと自覚していました。でもいまは、自分に自信が持てるパフォーマンスが少しずつできるようになってきました」
ラグビーは中学から福岡レディースで始めた。入団の際に古田真菜の妹・菜央が名付けた愛称「おっちゃん」は、所属するアルカス熊谷や代表でも定着している。
並行していた陸上部では、砲丸投げで全国大会出場。短距離も得意で、100メートルハードルは県で入賞するなど優れた成績を残した。
「楽しかったですし、陸上の経験がいまに生きています。走りのフォームが身についているので、加速力や爆発力はあると思っています」
元来の武器であるタックルは東筑で磨かれた。福岡レディースでの活動がある日曜以外は、男子部員と同じメニューをこなした。
「吹き飛ばされることもあったけど、世界レベルの相手でも負けないタックルができるようになりました」
タックルに加え、ボールキャリーでも光ったのが今季だ。昨春に「涙が出そうなくらい」タフだったFWキャンプを乗り越えて掴んだ。
「絡まれたり、低い姿勢になっても足を動かし続けられるようになりました。いまは絶対にぶち破ってやろうという気持ちでいけます」
2021年のデビュー以来、25キャップを重ねたことで15人制への理解も高まり、ワークレートが上がった。
「それまでは『ボール来ないで』と思っていたけど、いまはボールを持ったときにいろんな選択肢が持てて楽しい」と気持ちの変化も語る。
「体力のコントロールであったり、どこにいれば脅威になれるかを考えながら動けています。それでボールに絡める機会が増えました」
チームへの貢献がグラウンドでのパフォーマンスにとどまらないのが2024年の吉村だ。WXVを含む昨秋の海外遠征ではプレパレーションリーダーを務め、試合に向けた準備のアティチュードを追求した。
「戦術ではなく、自分たちがどういう意志、気持ちを持って練習するか、何にフォーカスするかを練習前にみんなにプレゼンする役割です」
ある日には「チーム内でのバトルを激しくしないといけない」と訴えた。仲間に厳しいことを言える質(たち)なのだ。
「母が小さい頃から市民センターや公園などいろんなコミュニティに連れて行ってくれました。自分の意思を発信することに怖さはないです」
長田いろは主将は感謝していた。練習内での雰囲気や強度の変化を実感したからだ。
「みんなの心の中には、嫌われるのが嫌という気持ちが潜在的にあったと思います。こうした方がいいなと思っても、悪いわけではないから言わなくてもいいか、と。でも、WXVの期間はもう少しこうしたほうがいいと指摘し合えた。さらに上に上がるためのフィードバックができました。声のボリュームもどんどん上がり、普段喋らない子もチャレンジしてくれました」
W杯までの約5か月も、チームの勝利のために行動する。「嫌われてもいいから厳しいことも言わないといけないし、常にチームに良い影響を与えるプレーをし続けたい」と誓った。
(文/明石尚之)
※ラグビーマガジン5月号(3月24日発売)の「女子日本代表特集」を再編集し掲載。掲載情報は3月16日時点。