国内リーグワンで2季ぶり2度目の日本一を狙うクボタスピアーズ船橋・東京ベイにあって、試合運びを安定させるひとりはブリン・ホール。攻防の起点のSHとして鋭く滑らかに伸びるパス、さばきの緩急で光る。接点から繰り出すキックも飛距離がある。
身長183センチ、体重93キロの33歳。母国ニュージーランドでは、強豪クルセイダーズの正SHとして2018年までスーパーラグビー2連覇を達成した。確たる実績を残した。
ちなみに当時、おもに司令塔団を組んだのはリッチー・モウンガだ。ニュージーランド代表56キャップを誇り、現在は東芝ブレイブルーパス東京に在籍する。
強豪国の実力者が相次ぎ集まる日本のラグビーシーンについて、ホールは「スピードの速い日本ラグビーのスタイルは、私に合っている」。来日したのは’22年。静岡ブルーレヴズに加わり、昨季までプレーした。
さらなる日本でのプレーを希望していたら、スピアーズと繋がることができた。
「ブルーレヴズの選手とのいい思い出もあり、クラブへのリスペクトはあります。スピアーズからオファーをもらえたのはラッキーでした。対戦していても、コーチ陣やストラクチャーがしっかりしているイメージがりました」
クルセイダーズ時代の指揮官は、現ニュージーランドヘッドコーチのスコット・ロバートソンだ。ロバートソンの特徴について、ホールは「コーチはレギュラー陣だけに目をかけがちですが、彼はスコッド全体を見る」。強い組織を作るいろはを皮膚感覚で知る。
かねて親交がある元ニュージーランド代表のライアン・クロッティからも、本人が在籍したことのあるスピアーズについてよい話を聞いた。決断は難しくなかった。
いざクラブに入れば、それぞれ日本代表、ニュージーランド代表で指導歴のある田邉淳、スコット・マクラウド両アシスタントコーチが攻守のシステムを設計しているとわかった。
「詳細を詰めていることに感銘を受けています」
前年度のスピアーズは、主力の故障などに泣き12チーム中6位。復権に向け、選手層を厚くしたがっていた。
特にSHでは、主戦級の藤原忍が昨年に日本代表となっていた。国内リーグが休みの間も国際舞台で献身していたとあり、同じ位置に実力者がやってくるのは幸運だった。
前川泰慶ゼネラルマネージャーは、昨秋の段階でこう言っていた。
「これはタイミング。いい選手に来てもらえて嬉しいです。おそらく、忍にとってもいい先生になってくれる。よく、言われるんです。SHの選手から『SHコーチって、呼んでもらえませんか』と。そのあたりを教えてくれる人が、意外といないんです。だから、(若手の)お手本になるような選手にいて欲しい思いはありました」
12月下旬の開幕以来、ホールは8試合中7度のメンバー入り。4試合で先発した。藤原も感嘆する。
「パス、コミュニケーション——自分のプレーをしながら、他のリーダー陣と話してゆくこと——の能力と、学ぶことが凄く多い。アドバイスもくれます。切磋琢磨してやれています」
現状で単年契約だという助っ人は、「できるだけ(在籍期間を)延長したい。そのためにはまず、自分のパフォーマンスをしっかり示さないといけない。選手育成も手伝いたい」。2月22日には東京・スピアーズえどりくフィールドで、古巣の静岡ブルーレヴズとの第9節を迎える。21番をつけ、途中出場を伺う。