決定的なトライを決めた試合の直後である。
ロブ・トンプソンは、所属する東芝ブレイブルーパス東京が強いのは「環境」のおかげだと話した。
2月15日、東京・秩父宮ラグビー場。加盟する国内リーグワン1部の第8節に12番で先発した。東京サントリーサンゴリアスとの通称「府中ダービー」を43-33で制した。今季6勝目である。
序盤から攻めまくった。
常に複層的な陣形を作り、突進と好パスの合わせ技でサンゴリアスを翻弄した。前半はWTBのジョネ・ナイカブラの2トライなどで、31-18とリードした。
後半は向こうに反撃の機会を与えて一時31-30と迫られるも、30分、再び天秤を傾けた。
向こうがタッチラインの外へ出したかったボールをハーフ線付近左で確保すると、敵陣で10フェーズの連続攻撃を繰り出した。
フィニッシャーとなったのは、トンプソンだった。
敵陣10メートル線付近中央でLOのジェイコブ・ピアスのパスをもらい、飛び出してきたタックラーの背後をすり抜けた。歓声を呼んだ。左手に持つ球をトライゾーンに置いた。
直後のゴール成功で38-30。身長184センチ、体重103キロの33歳は、その後互いが加点して終えたゲームでプレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した。
件のシーンでは「実は、本来いるべき場所(ポジショニング)に立つことができていなかったんです」と笑い、味方を讃えた。
「スペースは、見えていた。何より、ピアスがそこへパスを投げてくれた。ありがとう! というところです。(ブレイブルーパスの攻めでは)まずFWがいいキャリーをする。すると(防御が一か所に引き寄せられ、その周りに)人数の優位性ができる」
最近、ハイパフォーマンスを重ねる。9日の第7節では、敵地の熊谷ラグビー場で埼玉パナソニックワイルドナイツと激突。後半12分より登場し、何度も防御を切り裂いた。
その午後は、前年度のファイナルを戦った強豪と28-28で引き分けた。好調の理由を聞かれ、本人は「環境」について触れる。
「周りが、自分をよくしてくれているんです。周りの人のレベルが高いことで、自分を引き上げてくれる」
ニュージーランド出身。この国に興味を持ったのは2019年だ。
自国のハイランダーズの一員としてスーパーラグビーを転戦するさなか、当時あった日本のサンウルブズとのゲームのために来日した。’20年にトヨタヴェルブリッツへ入り、昨季より現所属先にいる。
「住めば住むほど日本が好きになった。私には2人の子どもがいますが、彼らが通っている保育園の様式からも学びがある。周りの子たちのマナーがよいため、家に帰ってもいい子にしてくれます。好き嫌いなく食べるようにもなりました」
府中市内での暮らしをこう話したうえで、クラブのよさも語る。トンプソンの移籍初年度にあたる前年度、ブレイブルーパスは14シーズンぶりに日本一となっている。
昨今の好結果の秘訣も組織の「環境」にあると、トンプソンは強調した。
まず具体例に挙げるのは、ロールモデルの存在だ。
36歳で日本代表87キャップ(代表戦出場数)のリーチ マイケル主将は「素晴らしいアスリートであり、日本人、外国人の両方をまとめてくれている」し、ニュージーランド代表56キャップのリッチー・モウンガも準備段階から司令塔の役目を全うしているという。実力と実績のある人間が規範となっているから、組織が安定していると伝える。
さらに言及するのは、控えグループにあたる「K9」の存在だ。
「トレーニングでは『K9』が週末の相手の守り方に沿ってプレッシャーをかけてくる。そのおかげで(本番で)うまくいく。色々なところでよく言われる『練習がきついと、試合が楽になる』という意識を、皆が持ってくれています。自分自身もこの『K9』にいたからわかりますが、気持ちのアップダウンがあるもの。そんななかでも『K9』の皆は、文句を言わずに頼まれたことを黙々とやってくれる。腐るような仕草も見せない。それはもしかしたら、(トップレベルのチームにおいても)珍しいことなのかもしれません」
昨季、元近鉄花園ライナーズヘッドコーチの水間良武氏が入閣。アシスタントFWコーチの肩書を持ちながら、専任で「K9」の育成に携わる。
リーグワンにおいて、いわゆるメンバー外選手のための指導者がいるのは稀。その効果には’19年就任のトッド・ブラックアダーヘッドコーチは「いま思えば、もっと早くそうすべきだった」と感嘆する。
一時はゲームメンバーと「K9」を行き来していたトンプソンは、「水間さんがいることは、チーム全体の構造としてよい」。こうも続ける。
「私にとって、『K9』にいて悔しい思いを抱いたことは、私のモチベーションになっています。もちろんシーズンは長く、(首脳陣は)疲れをマネジメントする必要がある。だから、いつか誰かに順番は回ってくる。そんな中、いつでもプレーできる準備をしてきました」
在日年数が長くなったことで、今季からリーグの出場枠に関する区分けで「カテゴリA」へ分類された。いまは、一度に出られる海外選手の上限とは無関係にプレーのチャンスを伺える。
「自分がもう少し長く日本でプレーできるかも…という観点で安心しています。できることなら、引退するまでこのチームでプレーしたいので」
国際統括団体であるワールドラグビーの規定上、日本代表となる資格も得られそう。「(現ヘッドコーチの)エディー・ジョーンズさんの考えはわかりませんが、もしチャンスがあればやってみたいかもしれません」と微笑んだ。