ラグビーリパブリック

ワイルドナイツのラクラン・ボーシェーはなぜ安定感抜群なのか。

2025.02.14

腫れた目でインタビューに応えるラクラン・ボーシェー(撮影:向 風見也)

 大事ではないか。滅多に痛がらない人が芝にうずくまっている。

 ファンを心配させたのはラクラン・ボーシェー。2月9日、埼玉パナソニックワイルドナイツの7番をつけて本拠地の熊谷ラグビー場にいた。

 国内リーグワン1部の第7節で、ディフェンディングチャンピオンの東芝ブレイブルーパス東京と激突していた。

 前年度のファイナルと同じカードにあって、起き上がれなくなったのは後半19分頃のことだ。敵陣中盤で迫ってきた人にぶち当たった直後、しばらくその場に倒れていた。

 どうやら、ブレイブルーパスの選手の指が左目に入ってしまったようだ。

「その瞬間、何も見えなくなりました」

 ところがどうだ。まもなく立ち上がり、事も無げに防御ラインへ入った。

「徐々に、徐々に、視力が戻ってきたので」

 28-28と同点で迎えた39分、地面に両手を下ろしてスティールを決めた。2人がかりのスイープにも動かず、勝負の決定打となりうるペナルティーキックを獲得できた。視野が狭まっていたかもしれない中のことだ。

 そもそもこの日は、キックオフから出色の出来だった。

 まず前半3分、敵陣22メートル線エリア付近左中間の接点へ絡む。それを先制ペナルティーゴールの呼び水とした。

 続く21分には、仲間と列をなして味方FBの野口竜司が蹴った球をチェイス。トライラインに近づきながら、捕球役を取り囲んだ。近くにいた野口らがランナーへ刺さってできたラックへ、飛びついた。

「(ターゲットが)孤立していたので」

 たまらず相手の援護役がその場へ倒れ込んだことで、6点目を奪うに至った。

 その後もハードワークした。

 走者や接点に身体を当てる際、ほとんどのシーンで腰を落とし、背筋を伸ばして上体を向こう側に差し込んだり、ボール保持者を胸元へ引き寄せたりしているように映った。衝突の局面を自分らしく支配した。

 戦況を踏まえて肉弾戦に参加するか、否かといった繊細な判断も、「年数を重ねたことで、直感的にできるようになる」。結局、ドローで終えたものの、ボーシェーは自身の強みを貫いていた。

「…時々、判断を間違えはするのですが、そのことも次の試合で活かせるようになる」

 身長191センチ、体重104キロの30歳。ニュージーランドのチーフスで名FLとして名をはせ、いまは来日4シーズン目にあたる。

 向こうの攻めを跳ね返す、球を奪うといった、堅守速攻型のワイルドナイツに欠かせぬプレーで存在感を示す。

 ハイパフォーマンスの一貫性を保つ裏では、ゴムバンドを用いたエクササイズで首や肩の周りへ刺激を入れる。「プレリハビリ」という故障を防ぐための調整だ。

「おかげで身体の状態はいい。怪我をしてリハビリに入るのではなく、プレリハビリで怪我をしないようにしてシーズンに入っています」

 実戦形式のセッションでは、なるべくタックルを試みて神経を研ぎ澄ませる。

「そこで自分がファーストタックラーになるのか、セカンドタックラーになるのか、もしくはスティールの人間になるのか(を判断する)。アタックでは、突進、クリーンアウト(サポート)といった小さな要素を意識してトレーニングに取り組みます。…それらが、ゲームに向けた自分の1週間に必要なことなのです」

 同僚から見たボーシェーの凄みは何か。

 証言するのは長田智希。一昨季のリーグワンで新人賞に輝いた25歳のCTB兼WTBが、通称「ロッキー」のひたむきさを伝える。

「細かいところで気配りができる。ウェート(トレーニング)をしたら、最後まで残ってその辺に散らばっているものを片付けています。オフの日に自由参加のボールゲームがあれば——それに加わるかどうかで『いい、悪い』はないのですが——ロッキーは必ず来る。シーズン前も、1~3年目の若手だけが早めに集まっておこなう練習へロッキーがいる…。それらが試合に繋がっているのかどうかはわからないですけど、選手としても、人としても尊敬できます」

 性格にも仕事ぶりにも真面目さがにじむ。本人はこうも述べた。

「身体の感覚がよくないといけない。それを作るには、いいプレシーズンを過ごすことが必要」

「ハイレベルなパフォーマンスを出すには、フィールドに立ち続けなくてはならない」

「ここから先、若返ることはありません。そんな中でも、健康的でフィットな状態を保ちたいです」

 まさに無事之名馬。

 16日には東京・秩父宮ラグビー場で第8節があり、昨季のセミファイナルでも戦った横浜キヤノンイーグルスが待ち構える。

 ワイルドナイツ史上有数の職人は、例の患部を充血させながら未来をにらむ。

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