戦前の順位が3、4位同士の対戦。上回っていた側の横浜キヤノンイーグルスは、序盤、際という際で強かった。
変化への反応、接点への差し込みが鋭く、対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイを前半ノートライに抑えた。
中盤での攻守逆転からピンチに陥った前半11分頃には、ビリー・ハーモン、嶋田直人の両FLが危険地帯へ走った。自陣ゴール前左まで回り込み、フィニッシュを伺うWTBのハラトア・ヴァイレアに相次ぎタックルを浴びせる。そのままボールを奪ったハーモンはこともなげに言う。
「いつでもハードワークし続ける。それが自分の仕事です」
続く29分頃には自陣22メートルエリアで一枚岩のラインを敷き、左PRであるシオエリ・ヴァカラヒがスティール。直後の防御で再び球をかすめ取れば、怒涛の反攻。33分、もともとあったリードを12-3と広げた。
ハーフタイム直前には、自陣のトライゾーン上でLOのマシュー・フィリップが地を這った。危機をしのいだ。
後半は風上とありさらに加速しそうだったが、ここからスピアーズが立て直した。
再びロッカールームからフィールドへ飛び出すにあたり、基本プレーへの意識とアタックラインの深さを見直し。この微修正がランナーを勢いづけ、向こうのせり上がる防御の裏側、外側のスペースを見つけやすくした。
その結晶が、シーソーゲームのさなかに刻んだ3、20、25分のスコアだった。ここでフィニッシャーとなったのはヴァイレアだ。序盤のワンシーンなどでの複数のエラーを、豪快な走りで帳消しにした。
前主将でインサイドCTBの立川理道はこうだ。
「(イーグルスの)前に出てくるディフェンスについては事前にわかっていて、どう攻めるかのプランもあったんです。後半のスコアは、その分析があったうえでできたのかなと。前半は『誰かがキックだと思っていたら、誰かが攻撃へ…』というところがあり、そのあたりを修正した。コーチ陣からも同じメッセージがあった」
援軍も光った。11分、FWの一部を入れ替えていた。
目立つのはHOのマルコム・マークス。身長189センチ、体重117キロという南アフリカ代表の雄だ。
身長190センチ、体重127キロと両軍の最前列で一番大きな右PRのオペティ・ヘルらと並んだ。
それまでもやや優勢だったスクラムで、より圧倒的な力を示した。マークスの弁。
「FWの8人で組むことも意識しました。同じ絵を見ながら、いい練習ができている。個人で特別なことをするのではなく、8人で」
ヴァイレアの3度目のフィニッシュとゴールキックで22―23と勝ち越してからの3分間で、2本続けて猛プッシュを披露した。
イーグルスの左PRで途中出場した岡部崇人は、身長180センチ、体重105キロの日本代表戦士。170センチ台の仲間とともに、低さを生かしたかった。組み合う前に互いの距離感を詰め、長身の隊列を窮屈にさせるつもりだった。
しかし実際には、合図を出すレフリーとの呼吸を合わせるのに苦労した。総じてマークスたちの望む姿勢で対峙させられた。
「(マークスたちは)重かったっすね。そこに対応するために身体の向きとかも変えようとしたけど、それもレフリーとの兼ね合いでできず、修正できずに行ってしまった。(今後は)レフリーとのコミュニケーションもそう(改善したい)ですし、距離の遠いスクラムも練習すべきかなと」
マークスの味方である立川も、「スクラムに関しては(詳細は)わからないですけど」として核心を突く。
「あそこまでドミネートをするから強さを感じます。レフリーへの印象を含め、いいものを持っていると思います」
マイナーチェンジとボトムアップで息を吹き返したスピアーズが3位に浮上したのに対し、イーグルスは失速し5位に落ち込んだ。要所で落球やパスミスを重ね、陣営の「丁寧に!」の声は届かなかった。
19―8とリードしていた11分以降には、自陣22メートル線付近でターンオーバーを許したうえに危険な反則でイエローカードを食らった。数的不利を強いられ、衝突による消耗度を高めた。
複数の選手が「(風向きを利用して)もっとキックを使うべきだった」と悔やんだのは、後の祭りだった。
ほぼ制御していたゲームの流れを失う傾向について、来日1年目で奮闘のハーモンは「相手にチャンスを与えすぎた。簡単に修正できるところなので、ここから巻き返す。遂行力を高めないと」と前を見た。