藤原忍は抜け目がなかった。
1月12日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部の第4節へ、クボタスピアーズ船橋・東京ベイのSHとして先発した。長らく上位争いをしてきた東京サントリーサンゴリアスが今季初勝利を狙う中、好ジャッジでゲームを引き締める。
スタンドの控え部員を静かにうならせたのは、前半17分頃だ。対面に入った元日本代表の流大が中盤左の接点からキックを狙うも、弾道の行先へは藤原が先回り。自陣22メートルエリアで難なく捕球し、蹴って陣地を奪い返した。
流のチャンスメイクを事前に防いだ瞬間について、こう振り返る。
「反応、できました。(流が)ちらっと(自分たちの背後)を見ていたので、『来る!』と」
直後の攻防で味方がターンオーバーを決めると、自陣10メートル線付近右中間から高い弾道を放った。
ハーフ線を通過したボールを仲間が確保したら、藤原はその地点へ駆け込んで左脇へパス。次のフェーズでは一転して、右奥の穴場へ足を振り抜いた。サンゴリアスの防御役を後退させ、その方角へ自軍のチェイサーを走らせた。
向こうから球が蹴り返されると、スピアーズが首尾よくカウンターアタックを仕掛ける。敵陣の真ん中あたりまで侵入すると、藤原は再三、狭い区画へ展開。適宜、死角をえぐり、敵陣22メートルエリアまで進んだ。
結局、その際は得点できず、試合は26-26とドローに終わった。ただ、黒いセカンドジャージィの9番は持ち味を発揮した。
それは準備の賜物だったと話す。
「(試合までの)1週間を通して、(相手が)どういう感じでディフェンスをするか、どういう感じで裏(後衛)が動くかを見ていた。(自身が)裏に蹴った時も、(事前に)見ていてよかったと思いました」
反省点も述べる。
「蹴った後に自分たちがどうしなきゃいけないかも、練習してきました。それができた部分もあれば、(別なシーンでは)できていない部分もあった。来週に向けて修正しないといけないです」
身長171センチ、体重76キロ。2月8日に26歳となる2児の父は、2020年度に天理大で同部史上初の大学選手権制覇を成し遂げた。翌年度からスピアーズに加わり、’22年度にクラブにとり最初の日本一達成に喜んだ。
昨年は日本代表でデビューし、計10キャップを得た。強豪国との対戦では大敗が重なったものの、その場に立って無形の財産を得た。
世界トップ級の圧力を経験できたため、国内リーグの試合へより落ち着いて臨めるようになったという。こう言葉を選ぶ。
「余裕が、できています。前までは(ゲーム前に)緊張することもあってミスも多かったですが、ジャパンを経験したことで、いまは落ち着いて判断できたり、ミスをした後に自分の中でどう切り替えるかを考えたりできている」
スピアーズへ戻っても学ぶ。一昨季以来の王座を目指すチームは、選手層拡大のため各ポジションで効果的に補強する。藤原のプレーするSHの位置には、昨季限りで静岡ブルーレヴズとの契約が終わったブリン・ホールを招いた。
ニュージーランドの強豪クルセイダーズで活躍したこの32歳からは、パスの精度、動きながらのコミュニケーションのうまさに刺激を受けている。
「本人からアドバイスをもらうこともあり、切磋琢磨しています」
経験を養分に判断力を磨く。「『1点差でもいいのでどう勝つか』というもの(考え)を突き詰めて勝たないと、レベルアップしない」と、接戦続きも望むところだ。
現在12チーム中5位。18日にはホームの東京・スピアーズえどりくフィールドで、リコーブラックラムズ東京とぶつかる。