一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンは、1月15日に「HIAプロトコルへのスマートマウスガード(iMG)導入」に関するメディア向けブリーフィングを実施した。
脳振盪に関するHIA(Head Injury Assessment)プロトコルの変更が、2024年1月以降の全ての世界のエリートレベルの大会で適用されたことに伴い、2024-25シーズンのリーグワンでHIAプロトコルへのスマートマウスガードの導入が始まった。センサーを搭載したスマートマウスガード(iMG:Instrumented mouthguards)を、脳震盪を判断する第一段階のタイミング「HIA1」の評価の指標の一つとして使用している。
今季のリーグワン(D1/D2)の各試合では、選手が着用するiMGが事前に設定された閾値を超える衝撃を感知した場合、医療スタッフにアラートが送信され、マッチオフィシャルは当該選手をオフフィールドでのHIA1評価のために選手を退場させるオペレーションで進行している。
開幕から約3週間が経過したタイミングで開催されたメディアブリーフィングでは、ワールドラグビーのサイエンス&メディカルマネージャー、リンジー・スターリング氏がレポートをおこなった。
ワールドラグビーの調査では、1チームにつき1試合500回のコンタクトが起こり、そのうち270回はタックルが関連している。脳震盪は4試合で3回の頻度、1試合につき75%の確率で起きているとされる。
iMGはこうした脳震盪に関わる脳への衝撃がデータとして計測できるツールだ。iMGに組み込まれたセンサーが直線加速度と角加速度を計測し、閾値を超える衝撃を検知するとアラートが鳴る。センシングされた数値は、即時的に脳震盪の判断・評価に利用されることに加え、2024年1月以降、22の競技大会、約8,000人のプレーヤーが計測した100万件近いデータが蓄積される。
ブリーフィングでは今季のリーグワンで計測したデータを発表した。1チーム平均18.3名が着用しており、医学的・技術的理由で着用を免除されたプレーヤーもいるが、世界的に高い数値だという。
24試合で検出されたアラートは19回。1チーム換算では2.5試合に1回アラートが鳴る頻度で、1プレーヤーにとっては46.2試合に1回アラートが鳴る計算だ。
iMGはプリベント・バイオメトロニクス社の製品で、価格はおよそ250ポンド(約4万9,000円)。ワールドラグビーの費用負担で提供されている。形状のパーソナライズは可能で、歯型の石膏と口内のスキャンデータを使って3Dプリンタで製作される。センサーは歯と頬の間の箇所に埋め込まれているため、マウスガードにはやや膨らみがある。テストを経た上で導入したツール・システムであるためセンシングの精度は高く、正しく使用した場合に誤作動が起きる可能性は低いという。
スマートマウスガードは目視では見落とされがちな衝撃やダメージを計測できるテクノロジーツールであるが、運用には物的・人的リソースが必要となるため、現段階での導入はトップレベルの大会に限られるだろう。ここで得たデータや知見がグラスルーツレベルまで広がる活用がなされ、ラグビーの発展につながることを期待したい。