2024年最後の試合では、ライバルの強さと自分たちの強さがわかった。
江良颯は12月28日、熊谷ラグビー場にいた。実質的には入団1季目となるクボタスピアーズ船橋・東京ベイの先発HOとして、国内リーグワンの第3節に挑んだ。埼玉パナソニックワイルドナイツが相手だ。
初代王者で前年度レギュラーシーズン首位のワイルドナイツは、分厚い壁を敷いていた。後半開始早々、江良は敵陣22メートルエリア左でラインアウトを始める。サインプレーで抜け出す。
トライラインに迫る。
ここで、向こうのFLのラクラン・ボーシェに追いつかれた。
「勝負できると思って勝負した」だけに、先方の反応の速さに驚いた。
23-24で惜敗した。前半は3-20とビハインドを背負った。ただ、一時は勝ち越すこともあった。江良は実感する。
「(ワイルドナイツに)圧力はありましたが、戦えない相手ではない。僕たちもやることをやり切れば、勝負できる。もう1回、自分たちのやるべきこと振り返って、セットプレーの強みを出していきたいです」
身長170センチ、体重106キロと一線級にあっては大柄ではないが、パワーで鳴らす。地元の大阪桐蔭高2年時には高校日本一に輝き、’23年度は帝京大の主将として大学選手権4連覇を成し遂げた。
スピアーズでの躍動は’24年2月から。前年12月からのリーグワンにあって、大学の卒業証書をもらうより先に出番を得た。大学4年生が新年度を迎える直前から公式戦へ出られる、アーリーエントリーという制度を活用したのだ。
即戦力として期待に応える傍ら、肩に痛みも抱えてもいた。
日々のトレーニングの前には、ストレングス&コンディショニングコーチのもとリハビリのメニューに取り組んでいた。
「試合には、問題ないようにしてくれていました」
戦いのさなか、決断した。第14節終了後の4月23日に離脱を発表し、患部にメスを入れることにした。
「(スタッフには)将来を見据えて、いま手術をするべきだと言ってもらい、僕自身もそうだと思ったので」
新シーズンに先立ち戦列へ戻った。
復帰後は、万全な状態を保つための身体の「整え方」を見直した。生来の力を最大化する身体の使い方、さらには「爆発的に相手をドミネートする」ための瞬発力を磨く。
プレシーズンマッチでは「逃げるというのは嫌やった」と、自ら走者に肩を当てた。タックルまたタックルで、鈍い衝突音を鳴らした。
何より、首尾よく味方と繋がれた。
「ずっと(仲間と)一緒にチャレンジしてきて、以前よりもチームのイメージしている画を見られていると感じます」
初戦勝利を経て、ワイルドナイツ戦では2試合連続でのスタメン出場を果たした。
ここまでベンチに控えていたのはマルコム・マークス。身長189センチ、体重117キロの30歳だ。‘23年までにワールドカップ2連覇を達成した南アフリカ代表の主軸で、国際団体のワールドラグビーによる’24年のベストフィフティーンにもなっている。
12チーム中6位に終わった昨季は怪我で棒に振ったものの、今年度は開幕からスコッド入り。表舞台で江良の出ない時間帯にインパクトを示しながら、舞台裏では後輩の江良に刺激を与える。
ルーキーの談。
「マルコムは練習中から局面、局面でどういうところにフォーカスすべきかなどの発言をして、チームの考えを統一してくれる。僕もそれを見習っていかないといけないです」
マークスの考え方、スクラムのうまさ、フィールドでの動きのすべてが参考になる。世界的名手と切磋琢磨しながら、自らも世界を見据える。
シーズン終了後の日本代表入りを目指す。
「世界のベストフィフティーンに選ばれたHOが身近にいる。色んなことが学べる。そこで戦えれば、(代表選出が)見えてくる。幼い頃からの夢なので、チャレンジしたいです。まずはHOとしてセットプレーを安定させたい。流れを変えられる選手になりたいです」
12日、秩父宮ラグビー場を敵地にして東京サントリーサンゴリアスとの第4節に挑む。2番をつけて今季3勝目を狙う。